2009年 9月20日(日)
(19日から続き)
依然、金精峠への上りは終わらない。
と、山の少し上の方にポツンと明かりが見える。トンネルの入り口と察する。もうそれほどの距離ではないように思える。しかし、つづら折れの坂を上っているので、なかなか近づいてこない。
2時00分、ついに峠下の金精トンネル入り口に到達。ここは標高1840メートル。達成感もあるが、それより何よりホッとする。ようやく自転車に乗ることができる。もう押さなくていい。
トンネルを抜けて県境を越え、群馬県側へ。自転車で初めての群馬県だが、何というか、それどころではないというか。片品村を下りにかかる。こちらももちろん真っ暗。
猛スピードで下っていく。ペダルを踏む必要なし。むしろ減速に気を使いながら走る。体は圧倒的に楽になったが、風は相変わらず強くて寒い。まだ9月だというのに、吐く息が白くなる。ちゃりポンはかぶったまま。これを持ってきていなかったら耐えがたかったかもしれない。意外なところで役に立つが、たまに対面から来る車からすると、夜更けの山の中で異様なものを見たと驚いているかもしれない。
片品村菅沼付近で湯元温泉以来の建物が目に入り、何か安心する。
依然速度は出っぱなし。暗い中、連続するカーブを切っていくのはかなり怖い。
目の前を突然、何かが横切る。
仰天して危うく転倒しそうになる。野生のシカだった。
ライトも着けてるのに、どうしてわざわざ人の前に出てくる!? いやがらせか!?
こんな時間にこんな所で事故になったら助からない。「自転車で旅行中の男性、群馬の山中でシカと衝突して死亡」という新聞記事が頭に浮かぶ。
その動揺が収まったのもつかの間、今度は自転車から何か小さなものが落ちて、谷へ転がっていく。ハッとして確かめてみると、ハンドルに付けていた速度メーターがない。取り付けのネジが緩んでいたらしい。再整備してもらうのにあわせて新しいのを買ったのに。これで速度・走行時間・距離の計測ができなくなってしまい、ガッカリする。
片品村丸沼付近で休憩所を見つける。もちろん休憩所自体は閉まっていたが、自動販売機があった。ここでようやく飲料を補給。一休みして、どうやら人心地がつく。
下りは続く。今度は「ホーッ! ホーッ!」という叫びが聞こえてくる。明かりもない夜の山の中ゆえ姿は見えないが、察するにサルの群れが近くにいるらしい。警戒されているのか。しかし、シカの次にサル、どういう旅なんだか。
少し下りが緩やかになったなと思ったあたりで、建物がちらほら見え始める。片品村の中心部へと入ってきたのだろうか。
それにしても寒い。道路沿いの自販機に温かい飲み物があるのを見つけ、飲んで体を温める。繰り返すが、まだ9月。
金精トンネルから30km近く下った4時ごろ、片品村須賀川というところでコンビニを発見、当然入る。
体が冷え切っているので、店には申し訳ないことながらしばらく立ち読みさせてもらい、体温が戻るのを待つ。ここで朝食も調達。
5時ごろ、出発。しばらくすると沼田市内に入る。そろそろ下りばかりではなってきた。日が出てペダルを踏むことも多くなると、着こんでいるのでかえって暑くなる。道路わきの木陰で着替える。
椎坂峠からまた急な下りとなる。速度がわからないのが残念。教科書に出てくるような見事な河岸段丘が見える。写真を撮ればよかった。
7時00分、沼田市白沢の交差点の脇にベンチがあるのを見つける。金精トンネルからはまったく寝ていないので、ここで横になって仮眠をとる。陽射しが暖かで心地良い。
8時30分、出発。沼田の市街地に入ってくる。沼田城跡をなんとなくまわってから、短い急な坂を下ってJR沼田駅の方へ。沼田の町の中心は河岸段丘の上にあるのだが、駅は坂の下の利根川に近い方にある。

さて、今日の課題の一つは変速機のワイヤーの交換。沼田の町をフラフラしつつ、ワイヤーが買えそうな店を探す。利根川沿いの国道17号でホームセンターを発見。10時の開店と同時に店内へ。
幸い変速機用のワイヤーは置いてあり、買って店の外で修理を試みる。が、ワイヤーが持参の工具では切断することができない。これもいい機会だと思うことにして、店内に戻ってワイヤーカッターを買う。再び店外に出て買ったばかりのカッターにワイヤーをはさんで力をこめると、刃が欠けた・・・。
ワイヤーカッターは返品し、諦めて店内の自転車修理コーナーに依頼。
無事修理完了した11時20分、出発。地図で今日のこれからのルートを確認する。ここから西へ向かい、長野県に入りたい。とすると、沼田からなら普通に考えれば国道145号に入って長野原町方面を目指すことになろう。ただ、坂は少しきつそう。安全策なら一旦国道17号を南に下り、渋川から国道353号で西進すれば中之条町で国道145号に合流する。並行して鉄道が通っているので、こちらの方が坂は楽だろうと思われる。だいぶ大回りになるが。
やはり沼田から国道145号に入ることにし、沼田市内のマクドナルドを探す。
12時20分、見つけて、昼食と サイトの更新。 その後、調べておいた宿泊施設数軒に電話で今日の宿泊を申し込むが、すべて断られる。今日はまともに眠れるだろうか。不安になる。

13時30分、出発。利根川を渡って国道120号から国道145号へ入る。
とたんに厳しい勾配が続き、へとへとになる。鹿沼から日光を経由して今まで走ってきた国道121・120・145号を含む区間には日本ロマンチック街道という愛称がついているのだそうだが、自転車乗りにとってはロマンチックとは言い難いキツい道だと思う。休み休み上る。飲み物がまた乏しくなってきたが、買う場所も見当たらない。

およそ1時間半、8km弱で400メートル上って、15時00分、ようやく今井峠を越え、高山村に入る
下りになり、打って変わって快走する。途中、コンビニを見つけて飲み物を補充。
中之条町に入り、下りが終わる。16時00分、JR吾妻線中之条駅前に到着。
ここからは吾妻線と吾妻川に沿って走る。群馬原町駅近くの本屋さんでちょっと休憩。アイスを食べる。
そろそろ宿を決めたいところだが、電話をしても飛び込みでお願いしてもことごとく断られる。
無理をしていたわりには体調は悪くなく、走りはまずまず。吾妻渓谷はなかなか美しく目の保養になるが、宿はない。
長野原町に入り、暗くなった18時20分、川原湯温泉に到着。ここでもあたってみるが、今日はどこも満杯のようですよと言われ、ついに降参。情けないが、ここから吾妻線で宿がありそうな渋川まで戻ることにする。荷物は持っていくが、自転車をバラす気力はないので駅前の無料駐車場に置いていく。
渋川駅で降りて、まず目の前のホテルに宿泊を依頼するが、満室との答え。さらに別のホテルにも行ってみるが、やはり断られる。さればと、駅から少し離れた場所にあるホテルにも電話をかけてみるが、やはり満室。
どうしようとさすがにあわてつつ、とりあえず沼田のホテルに電話を入れると、空室ありとのこと。バカバカしいような気もするが沼田に戻ることにする。
沼田駅からはタクシーでホテルへ。近くにコインランドリーがあったので、まず洗濯。なんだかんだで21時を過ぎ、近くに開いている適当な店もないようなので、夕食は弁当。かなりむなしいが仕方なし。