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RONNIE LANE

7. Ronnie を道案内に

 一通り Ronnie の作ってきた音楽を取り上げたところで、今度は Ronnie 自身の作品ではなく、Ronnie が影響を受けた音楽や Ronnie と活動を共にした人の音楽を探ってみます。

 いわば Ronnie を道案内にした音楽散歩。わたしにしてみれば、こういうことでもなければ聴くことが無かったであろう曲の数々と出会う機会になりました。それも、また楽し。

Keep Movin' On

Keep Movin' On
Sam Cooke (2001)

 ミスター・ソウルとまで呼ばれた男、Sam Cooke の早過ぎた晩年(1964年、33歳で亡くなっています。)の作品をまとめた編集盤。Small Faces のデビュー・アルバム "Small Faces"(Decca) 冒頭1曲目に Ronnie が歌った "Shake" が収録されています。黒人音楽をこよなく愛する伊達者 "Mods" の顔役 Small Faces が Ronnie のスタート地点だったことを考えて、まずはこれを選んでみました。ちなみに Ronnie の Faces 時代の同僚 Rod "The Mod" Stewart も Sam Cooke の大ファンで、"Shake" 他何曲かをカバーしているそうです。

 収録曲はどれもきわめて洗練されており、オリジナルと聴き比べるとひたすら荒削りにかっ飛ばす Small Faces の "Shake" はとっても野蛮です(笑)。

 しかし、かっこいいですな、この声! なんといってもこの声です。Steve Marriott や Rod Stewart も、きっとこんな風に歌いたかったんだろうな。ついでに余計なことですが、彼は声だけでなく、顔もメチャかっこいいです。ジャケットの写真、見ただけでこのCD買う人がいても不思議ではないぞ。天は二物を与える代わりにさっさとお召しになったのか?

 このアルバムには Ronnie が "Ronnie Lane's Slim Chance" でカバーした "I'm Just A Country Boy" も収録されています。わたしはてっきり、Ronnie は Sam Cooke の影響でカバーしたのだろうと思っていたのですが、このアルバムの解説には未発表曲とありましたので違うみたいです。偶然の一致なのでしょうが、それはそれで興味深いです。

Bo Diddley

Bo Diddley
Bo Diddley (1958)

 後述の Chuck Berry らとともに、ロックンロールの先駆者の一人ですね。「ジャングル・ビート」とも言われる独特のリズムと印象的なギターで名を馳せました。

 本作がアルバムとしては1作め。といっても、1950年代のことなので、収録曲はそれ以前にシングルとして発表済みのを集めたもの。

 音はシンプル。Bo Diddley 本人のボーカル・ギターにバックはドラムとマラカスだけ、なんてのもあります(マラカスって・・・、時代を感じるなぁ)。ジャカジャカのギターは、弾く人がギターを手にしたなら、つい真似したくなるんじゃないかしら? メロディもシンプル。わかりやすさが魅力。

 Ronnie と同じ世代のロックミュージシャンたちにとってはヒーローで、The Rolling Stones や The Kinks らにカバーされていることでも知られますし、Ronnie の Faces 時代の仲間・Ron Wood は彼といっしょに来日公演したりしています。Ronnie についていえば、Small Faces 、Faces 、Slim Chance でのカバーは見当たらないんですが、Small Faces 結成以前、The Outcasts というバンドで活動していたころ、よくカバーしていたそうです。この当時の数少ない音源 "Ronnie Lane & The Outcasts (Live)" の1曲めが本作にも収録されている "Before You Accuse Me" ということです。ただ、この曲はブルースで本作の中ではちょっと毛色が違う感じ。

Shotgun

Shotgun
Jr. Walker And The All Stars (1965)

 Ronnie の伝記 "Can You Show Me A Dream? The Ronnie Lane Story" での本人の談話によりますと、Small Faces でデビューする前後について、「当時の自分は本物のモッズだったし、特に好きな2つのバンドが Booker T. & The MGs と Jr. Walker And The All Stars だった」と言っています。 R&B を愛するモッズ なら Jr. Walker は押さえておくべき存在だったようですね。

 ということで、Jr. Walker And The All Stars です。こちらも本作がアルバムとしては1作め。モータウンからです。インスト、もしくはほぼインストの曲が多く、歌物は全12曲の半分程度。

 中心人物である Jr. Walker のサックスをひたすら前面に。むせび泣くような音色で吹きまくってます。70年代ハードロックのギター的存在感といいましょうか。

 ん〜んっ、1曲めから音はかなり妖しげ、いかがわしげ。淫靡なんでございます。その後の Ronnie との関係性は、正直思いつかん(笑)。田園とかフォーク/カントリーとか、一切無縁という音なんですが。もっとも Ronnie がプロデュースした後述の Akido なんかは、妖しげ感という点では割と近いかもしんない。Ronnie にとってはこういうのって、「好きだけど自分が演るには向いてない」音楽だったのかな?

Revolver

Revolver
The Beatles (1966)

 紹介するのもいまさらという気さえする The Beatles 中期のアルバム。かなりサイケに接近しつつあった頃にあたり、これが彼らの最高傑作だと推す方も少なくないようで。

 直接 The Beatles の曲をカバーすることはありませんでしたが、 "From The Beginning" 以降の作品を聴けば Small Faces も彼らの影響を強く受けたことは明瞭に感じられます。変化に富んだ楽曲、サイケな雰囲気、それに発表された時期を考えると特にこのアルバムに感化されたところは大きいのでは、と推測して選んでみました。

 このアルバムの次に The Beatles はかの "Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band" を発表。その後を追うようにして Small Faces はコンセプト・アルバム "Ogdens' Nut Gone Flake" を出すわけです。もっとも影響されたのは当然 Small Faces だけではなく、というか当時のロック・バンドで The Beatles の影響からまるっきり無縁でいられた方が少数派なのでは? 改めて怖ろしいバンドだと思います・・・。

 こじつけっぽいですが、Faces は Paul McCartney のソロ作から "Maybe I'm Amazed" を、John Lennon のソロ作から "Jealous Guy" をカバーしており、また Ronnie が Wings の "Back To The Egg" に参加したりと、その後も微妙に関係があったりします。

 ちなみにわたしがこのアルバムで一番好きな曲は、そろそろプッツン、切れかけつつあったかに思われる John の "I'm Only Sleeping" 。

Best Selection

Best Selection
Chuck Berry (2001)

 上記の The Beatles も The Rolling Stones も The Kinks も、こぞって彼の曲を取り上げている「ロックンロールの基本」。

 「一度ぐらいは聴いとかにゃイカンよなー」と、つい思わせる存在感があります(笑)。

 ということで、Faces も "A Nod Is As Good As A Wink... To A Blind Horse" で "Memphis, Tennessee" を、Ronnie は "Ronnie Lane's Slim Chance" 及び > ライブ・アルバム3枚 で "You Never Can Tell" をそれぞれカバーしており、このアルバムはその2曲が含まれるということで選んでみました。付け加えると Ronnie は1983年のインタビューで Faces 時代の曲の中で気に入っているものとして、"Memphis, Tennessee" を挙げています。

 一聴してみての感想は、既視感バリバリだぜ(笑)。

 誰もが知っているあのギターはもちろんのこと、意識はしていなくてもカバーも含めてなんだかんだで聴いたことがある曲が多いからでしょうね。さすが、御大。

 さて、オリジナルの "Memphis, Tennessee" はノリノリという感じではなく、彼にしてはおとなしい仕上がりでちょっと意外でした。"You Never Can Tell" のピアノやホーンは、なるほど Ronnie が好きそうな感じ。いいですね。

 なお、Chuck Berry は2017年に90歳(!)で亡くなりましたが、老境に至っても演奏活動を続け、死の直後に38年ぶり(!)の新作アルバムが発表されるなど、文字通り生涯現役でした。80年代のドキュメンタリーで、共演の Keith Richards に「映画はアンタが死んだ後まで残るんだからちゃんと録らなきゃ」と注意されて、「オレは死なないから関係ない」と言い返したとか。これがロックンロールです(笑)。

Exile ON Main St.

Exile ON Main St.
The Rolling Stones (1972)

 The Beatles 挙げといて、The Rolling Stones 無視するわけにも・・・、ということで Stones です。Ronnie とのつながりを考えれば、むしろ The Beatles よりずっと近いものがあります。

 例えば、同じロンドン出身ということもあって、Small Faces 時代から Ronnie は Stones のレコーディングにゲスト参加(バック・コーラス)したりしています。判明しているものでは、1965年のシングル "Get Off My Cloud" に始まり、アルバム "Their Satanic Majesties Request" 収録の "In Another Land" 、アルバム "Sticky Fingers" 収録の "Can't You Hear Me Knocking" があります。

 んで、Stones のリズム隊 Bill Wyman と Charlie Watts は The ARMS Concert に出演していますし( Charlie は "Rough Mix" にも参加しています)、このアルバムでサックス吹いている Bobby Keyes は "Mahoney's Last Stand" あるいは Faces のアルバムその他で Ronnie と共演し(アメリカ時代の Ronnie のライブでも!)、「6人目の Stones 」こと Ian Stewart は "Mahoney's Last Stand""See Me""Rocket 69" に参加しています。

 一方、Faces 時代の同僚 Ron Wood は現 Stones(笑)、Ian McLagan も Stones のサポート・メンバーだった時期がありまして、人脈がずいぶん重なっています。

 さて、現役最長寿ロック・バンドということで Stones はたくさんのアルバムを出していますが、中でも名作として評価も高く、何より "You Never Can Tell""Kuschty Rye" に収録されている "Sweet Virginia"(どちらもライブですが、別バージョン)が入っているということで、これを選んでみました。Stones のカバーでこの選曲というところがまた Ronnie らしく。"Satisfaction" や "Sympathy For The Devil" あたりはそもそも似合わないだろうしな。

 発売されたのが1972年、Ronnie が Faces で活動していた頃ですね。当時、Faces は「 Stones の弟分」的存在だったとか。なるほど、このアルバムを聴くとその感じがよくわかります。Stones の諸作品の中でも特にアメリカ南部風味が濃いとされるアルバムですが、ここでの音の感触は Faces と非常に近いものがあります。もっとも、わたし個人の趣味ではやっぱり Stones の「ワルっぽさ」より Faces の「バカっぽさ」の方に魅かれてしまいますが(笑)。"Sweet Virginia" にしても、毒気をはらんだ Mick Jaggar の歌うオリジナルより、ひたすらのどかな Ronnie のカバーの方がいいじゃないかと思ってしまいます。あまり一般的な意見ではないのでしょうけれど。

 とはいえ、"Rocks Off" や "Happy" のカッコよさには脱帽。

Rockin' On Rampart

Rockin' On Rampart
Fats Domino (2003)

 こちらは南部っぽいんじゃなくて本物のアメリカ南部出身、音楽の街ニューオーリンズを代表するミュージシャンの一人・Fats Domino の2枚組編集盤。日本ではやや注目度が低いような気もしますが、Ronnie を含め、あの世代の人たちに対しては強い影響力を持っていたと察せられます。ちなみに The Beatles の "Lady Madonna" は、彼のスタイルを意識して作られたものだとか。

 先に取り上げた Chuck Berry もそうでしたが、この人も編集盤がめったやたらと乱発されており、どれ買ったらいいんだかわかんねーよ状態でしたが、"Careless Love"( "Anymore For Anymore" 収録)、"Blue Monday"( "Ronnie Lane's Slim Chance" 収録)、"I'm Ready"( "Rocket 69" 収録・ボーカルは Henry McCollough )の3曲が入っているというので、これにしてみました。1枚目は1950年代初めのシングル(らしい)が並び、2枚目がライブを含む録音年代不詳のヒット曲集という構成。輸入盤なものでどういう意図でこういう編集になったのかはわかりません。音質は録音年代の古いものが多いのでそれなりですが、全46曲と量はタップリ。

 この人の音楽はわたしの貧しい耳にはジャズのようにも、ブルースのようにも、ソウルのようにも、ロックンロールのようにも聴こえてしまいますが・・・、Fats Domino 自身のピアノを主体とする大らかで気さくな演奏にひたっていると、「細かいジャンル分けなんか、気にせんでいいか」と思えてきます。時に気だるく、時に楽しく、「古き良きアメリカ」なんて言葉をちょっと連想してしまいます。"Korea Blues" のメロディ丸無視で強引に割り込んでくる軍隊ラッパには笑わせてもらいましたが。

 これを聴く限りでは "Blue Monday" にしても "I'm Ready" にしても、Ronnie のカバーは原曲を踏襲した仕上がりになっているようです。他のカバー曲を聴いても Ronnie はオリジナルを解体・完全再構築してしまうようなやり方はしていませんね。その代わり、何気なく演奏しているようで、実はとても丁寧に作っているのが感じられますが。

 ちょっとした発見を一つ。わたしの持っている "Anymore For Anymore" のCDでは "Careless Love" はトラディショナルと表記されていますが、このCDではちゃんと作曲者が書いてあり、William C. Handy, Martha Koenig, Spencer Williams の共作だそうです。

The Essential

The Essential
Harry Belafonte (2005)

 このCDの解説には「長身でハンサム、そして分類しがたい希少な存在」とあります。フォークやカリプソを好んで取り上げ、日本でもよく知られた "Banana Boat Song (Day-O)"(「デ~オ、デェェェオ」で始まるあの歌です)など多くのヒット曲を持つ歌手であるばかりか、俳優としても活躍したアメリカ・エンターテイメント界の古強者。

 この人も編集盤がたくさん出ていますが、"I'm Just A Country Boy"( "Ronnie Lane's Slim Chance" 収録)と "Man Smart (Woman Smarter)"( "Rocket 69" 収録)が入っているということで選んでみました。Belafonte 自身の選曲によるという2枚組です。

 "I'm Just A Country Boy" にしても "Man Smart (Woman Smarter)"(オリジナルはトリニダートのカリプソ歌手・King Radio 。 The ARMS Concert で Andy Fairweather-Low が演った曲でもあります)にしても、他に何人も歌っている曲ですので Ronnie に Harry Belafonte の影響があったのか、正直自信がないのですが、しかしこのアルバムは実に楽しいです! 親しみやすさ、ユーモラスかつロマンティックな雰囲気、強引ですが Ronnie が Belafonte のファンであってもおかしくないと思います(笑)。

 とにかく歌がうまい! 声がまず抜群に良いですし、曲に応じてさまざまな表情で歌いこなす力量は素ン晴らしい。

 "I'm Just A Country Boy" は Belafonte 、Sam Cooke 、そして Slim Chance の各バージョンを聴き比べてみましたが、どれもバックの音は押さえ気味にじっくり歌を聴かせており、甲乙つけがたし。Belafonte に Sam Cooke じゃ相手が悪すぎるような気がしますが、なかなかどうして Ronnie もがんばっております。なんか、Slim Chance バージョンはカワイイ感じですけど(笑)。一方、"Man Smart (Woman Smarter)" の Ronnie バージョンは Belafonte とはかなり違った、あまりカリプソを感じさせない、いかにもロックンロール・バンド然とした調子。ほほう。

 Belafonte はロック・ファンにとってはあまり接点のない人ですし、ロック的な曲は入ってなかったのでオススメしにくい部分はあるのですが、そこにこだわらない方であれば実に良質でバラエティに富んだ音楽が聴けますので是非。また、このCDはヒット曲満載、「セサミ・ストリート」や「みんなのうた」で使われた曲もあったりして、Belafonte 未聴の方にとってもなじみやすいかと思います。しかし、"バケツの穴" に原曲( "(There's A) Hole In The Bucket" )があったとは・・・、はからずも勉強してしまった・・・。

 付記しますと、このCDの1曲目 "Midnight Special" の印象的なハーモニカを吹いているのは、レコード・デビュー前、若き日の Bob Dylan だそうな。

Plainsong

Plainsong
Plainsong (2005)

 元 Fairport Convention の Ian Matthews を中心に結成されたグループ Plainsong 。このCDは彼らが1972年に発表し英国フォーク・ロックの名盤と評する声も高いファースト・アルバム "In Search Of Amelia Earhart" に当時未発表に終わったセカンド・アルバム "Now We Are 3" を加え、さらにライブその他のボーナス曲をてんこ盛りにした2枚組。

 "In Search Of Amelia Earhart" 1曲目の "For The Second Time" のイントロでいきなり引き込まれてしまいましたよ、わたしは。サビの儚げな歌声には「うむ、名盤だけのことはある」と納得。ええ、安直ですとも。アメリカに対する憧れが作品の原動力になっているはずなのに、結局イギリス的繊細さが魅力になっているところがなんとも言えず、いとあはれなりけり。

 "In Search Of Amelia Earhart"(英文の解説をちょっと読んだら、Ian Matthews が「これはコンセプト・アルバムじゃない。アメリアについての歌は2曲しかないんだし。」とキッパリ言っていました。わたしも誤解していました・・・。すみません・・・。) には、第2次世界大戦前のアメリカで著名であった女性飛行士アメリア・イヤハートをテーマにした曲が二つあり、うち一つがお察しのとおり、"Amelia Earhart's Last Flight"( "Anymore For Anymore" 収録)です。加えて "I'll Fly Away"( "Mahoney's Last Stand" 収録)も。発表が1972年ということは、 "Mahoney's Last Stand" の制作時期とほぼ同じ、 "Anymore For Anymore" は少し後、ということになりますが、この2曲はどちらも元々アメリカ産の歌で Plainsong のオリジナル作ではないので、Ronnie のカバーがこのアルバムの影響によるものであるとは言い切れません。ただ、時期は不明ですが、Ronnie は Fairport Convention のレコーディングにゲスト参加したことがあるようなので、その関係で Ian Matthews とつながりがあっても不思議ではないのですが。

 Plainsong の "Amelia Earhart's Last Flight" は正調フォーク/カントリー・ロックという感じです。対するに Slim Chance はピアノやサックスを前に出してグッとけだるく酒場音楽風になっています。Ronnie なりにアメリア・イヤハートが活躍していた戦前のアメリカの雰囲気の再現を狙ったのでしょうか。歌詞も少し違っています。この曲の作者である Red River Dave のバージョンも聴いてみましたがどちらに近いとも言い難い感じでした。それぞれの持ち味を出したってことですかね(笑)。"I'll Fly Away" は、 "Mahoney's Last Stand" のがアカペラコーラス・約30秒の超ショート・バージョンであるのに対し、"In Search Of Amelia Earhart" ではマンドリン・タンバリン等による伴奏つき・2分ほどで、これもやや印象が異なります。

 この作品はアメリカ音楽に傾倒する英国人の手によるものという点もアコースティック楽器多用のフォーク/カントリー系の作風という点も Slim Chance の諸作に共通しますし、制作時期もわりと近いのですが、Plainsong は明らかに西海岸の影響が色濃く(ボーナス曲では The Byrds や元 The Byrds の Gene Clark のカバーを演っていたりします)、農村系の Slim Chance とはだいぶ路線が違います。Ian Matthews と Ronnie の歌い手としてのタイプも違いますしね。そのへんがまたおもしろかったです。

 そう、それからわたしが持ってる "Mahoney's Last Stand" には "I'll Fly Away" はトラディショナルと表記されていますが、このCDでは作曲者は Albert E. Brumley となっています。またかい、Ronnie 。調べが甘いぞ。

Wheatstraw Suite

Wheatstraw Suite
The Dillards (1968)

 The Dillards ? 知らんな~。ということで少し調べてみました。

 アメリカ・ミズーリ州出身の Doug と Rodney の Dillard 兄弟を中心としたブルーグラス・バンドで、1960年代から70年代にかけて西海岸を中心に活動していたそうです。このアルバムは Dillard 兄弟の兄・Doug が元 The Byrds の Gene Clark とグループを組む( Dillard & Clark )ために脱退した直後の4枚目にあたり、The Beatles の "I've Just Seen A Face" をカバーするなどロック色を強めた時期の作品なのだそうです。

 名前もよー知らんバンドをいきなり聴いてみたのはもちろん Ronnie がカバーした曲が含まれているからです。"Single Saddle"( "Ronnie Lane's Slim Chance" 収録)とまたも "I'll Fly Away"( "Mahoney's Last Stand" 収録)。ちなみに2曲とも The Dillards のオリジナルではありません、念のため。

 聴いてびっくり、The Dillards の "I'll Fly Away" もアカペラコーラス・40秒弱の超ショート・バージョン! 実は前記 "Plainsong" のボーナス曲にも同曲のアカペラコーラス・40秒ほどのデモ・バージョン(歌詞が短くなっていて、このアルバムや "Mahoney's Last Stand" のと同じ範囲を歌っています。)が収録されていました。この3バージョン、どれもそっくり! 元ネタはこっちかい。"Single Saddle" の雰囲気も "Ronnie Lane's Slim Chance" の同曲とかなり共通するものがあり、やはりこれが元でしょう。おまけに Plainsong のメンバーの一人 Andy Roberts は、"Amelia Earhart's Last Flight" は The Dillards に習ったと言っています。つーことは・・・、うーむ、さりげなく重要なバンドなんじゃん・・・、参ったね。

 でもって、内容も良いのですよ、これが。"Sweetheart Of The Rodeo" 以降の The Byrds や初期の Eagles がお好きな方なら要注目! カントリー・ロック化した The Beatles のカバーもバンジョーがチャカポコ鳴っている高速インストゥルメンタルもなかなかカッコよく、知名度の低さがちょっと理解しにくい出来ばえです。発表当時もあんまり売れなかったそうですけど。もう少し何とかならんかったんかいと言いたくなるダサダサなジャケットがいけなかったのか?

 カラリとした音が青く澄みきった空とよく合いそうで、Slim Chance 、Plainsong といった英国勢の翳りや湿り気との対比も聴きどころ。

First Lady Of Immediate

First Lady Of Immediate
P.P.Arnold (1968)

 ここまでご紹介してきたのは皆野郎ばかり。個人的にはちょっと寂しい(笑)。

 だから、というわけでもないのですが、ようやく女性の登場です。「モッズの歌姫」P.P.Arnold です。彼女は元々アメリカ出身で Ike & Tina Turner のバックコーラス及びダンサーを務めていた The Ikettes というグループの一員でした。Ike & Tina Turner とともに渡英し、コンサートで歌っているところを当時 The Rolling Stones のマネージャーだった Andrew Loog Oldham に見出されて英国でソロ・アーティストとしてデビューすることになったということです。

 彼女のファースト・アルバムである本作は題からもわかるとおり、Oldham の設立した Immediate Records から発表されたもので、当時同じく Immediate に所属していた Small Faces も制作に協力していたというつながりでここで取り上げてみました。また、彼女は Small Faces のシングル曲 "Tin Souldier"(ホントは彼女のために書いた曲だったそうなのですが、Steve Marriott が気に入っていたため、結局 Small Faces が録音したのだとか)や "The BBC Session" の "If I Were A Carpenter" と "Every Little Bit Hurts" でバックコーラスを担当しています。なお、このアルバム収録曲中3曲をやはり Oldham がらみということなのか、Mick Jagger がプロデュースしたりしています。

 彼女の歌声は実に力強いのですがドスをきかせるようなタイプではなく、まだ十代だったこともあってかどことなく愛らしい感じがあって多分にアイドル的な印象を受けます。ジャケットの写真も素敵! 実はジャケットに魅かれて買っ・・・。

 Small Faces が参加している曲は "(If You Think You're) Groovy" 。

 えっと、まるっきり Small Faces に聴こえるんですけど・・・。Steve Marriott が歌っているバージョンが想像できてしまうぞ。というのも当たり前で作曲は Marriott / Lane 、プロデュースも Marriott / Lane 、バックの演奏は Small Faces 。これで Small Faces 風でなかったらその方がどうかしてるって。他の曲と比較してベースがとてもよく聴こえます。Ronnie のベースはいつもながら輪郭の丸っこい音( plonk, plonk ♪ )で、いい味出してます。本作収録曲の中ではやっぱりこれが一番かな。それにしても彼女がリード・ボーカルの "Tin Souldier" 、聴いてみたかったな。

Would You Believe

Would You Believe
Billy Nicholls (1968)

 以前、貴重な情報源であった The Official Ronnie Lane Website (現在、閉鎖状態のようです。残念・・・。)の記事によりますと、Small Faces が Immediate Records に在籍していたころ、彼らは Immediate の他のミュージシャンのレコード多数に客演や曲の提供等をしており、後年確認のため質問しても多すぎて本人たちさえどれに参加したのか、もうおぼえていなかったそうで。このアルバムは参加したことがはっきりしているものの一つ。ただし、制作された当時 Immediate の経営問題から発売中止になり、ごく少数が出回っただけに終わったため、アルバムの存在自体がはっきりしないことになってしまったといういわくつきの作品。最近ようやく復刻されて高い評価を得ているようです。

 音はサイケでソフトでちょいフォークで、若く瑞々しい才能の片鱗とともにラブ&ピースな時代の空気感をそのまま封印したような作品です。この時、Billy Nicholls 本人はまだ十代だったっていうんだからねぇ、まったく腰が抜けそうです。過剰プロデュースだという批判もうなずけないこともないのですが、時代が時代ですからこれもまた良し。ハープシコード(多分)がやたらに顔を出すところや "London Social Degree" の U2 みたいなギターが印象に残ります。全編トロトロと心地よく、昼食後の午睡のお供などにいかがでしょう?

 Small Faces は前出の P.P.Arnold も歌ったアルバムタイトル曲に参加(他にも複数の曲に参加しているようですが、どれなのかは確認できませんでした)。プロデュースも Marriott / Lane 。しかし、バックコーラスでも気合入りまくりな Steve Marriott がなんか微笑ましい・・・。

 デビューがうまくいかなかったためか、彼はその後 The Who のサポート・メンバーを務めたり、作曲・プロデュースといったどちらかというと裏方の仕事をしていたようです。Ronnie 関係の作品への参加としてはまず "Ogdens' Nut Gone Flake" 。そして "Mahoney's Last Stand""Rough Mix" にも。どれも目立つ活躍はしていませんが Ronnie とは親密だったようで、日本でも公開された Ronnie のドキュメンタリー映画 "The Passing Show: The Life and Music of Ronnie Lane" に出演しインタビューに答えています。

Who Came First

Who Came First
Pete Townshend (1972)

  "Rough Mix" を Ronnie と共作したご存知 The Who の頭脳、Pete Townshend のファーストソロアルバム! なんですが、もともと本人が望んで出した作品ではなく、少々訳アリのアルバムです。

 Pete Townshend はこの頃 Meher Baba というインド出身の導師の熱心な信者でして、彼は友人たちと1970年に "Happy Birthday" 、1972年に "I Am" という Meher Baba 財団のためのアルバムを作っていました。

 これらの作品はその性格上、枚数限定で一般販売はされなかったのですが、海賊盤が出回ったためレコード会社が正式に発売しないかと Pete Townshend に打診しました。これを受けて彼は "Happy Birthday" と "I Am" をそのまま公式に発表するのではなく、これら2枚のアルバムの曲 + The Who 用のデモなど他の未発表曲の中から選んだもので再構成した上で、自分のソロアルバムとして出すことにしました。それが本作というわけです。

 そうした事情があったためか、1枚のアルバムとしてみるとややまとまりがないような気はしますが、それぞれの楽曲の水準は決して低くなく、そこはさすが Pete Townshend 。

 特徴のあるメロディやギターの音色は The Who と共通していますし、後に The Who として録音された曲もあるものの、彼個人の信仰が反映されているということがあるのか、穏やかでやさしげな曲・演奏が主体で、当時の The Who 的八方破れノリは影を潜めています(とりあえず Keith Moon は参加していないらしい・笑)。

 で、この作品と Ronnie にどんな関係があるのかというとこれが大アリで、Ronnie もまた Meher Baba を信奉しており "Happy Birthday" に "Evolution" という曲を提供していました。それが本作にも横滑りで収録されたと。

 この "Evolution" はどんな曲かというと、聴けばすぐわかります。題は代えられてるけど "Ronnie Lane's Slim Chance" や Faces の "First Step" に入ってる "Stone" です。本作は一応、Pete Townshend 名義になっているにもかかわらず、作曲もボーカルも Ronnie です。そんなん、アリか?(笑)

 Faces バージョンとも Slim Chance バージョンとも違って、バックは Ronnie と Pete Townshend のギターだけ(リードのアコースティックギターが Pete だそうです)とえらく簡素です。風呂場で録ったんじゃないかと思うくらいエコーがかかりすぎているのがイマイチなんですが、リラックスした雰囲気の中、息の合った演奏を聴かせてくれて、これはこれで良い感じ。出だしでトチって Ronnie が笑ってますけど。

 「大昔のある時、おれは石ころだった〜 ある時はヒナギクだった〜 またある時はウシガエルだった〜」と生まれ変わりを繰り返すことを歌っていまして、なるほど輪廻転生、インド思想の影響なんだろうなぁと思う反面、「こういうの、アイルランドの民話になかったっけ?」とも思いました。

 また、本作には前記の Billy Nicholls が歌う "Forever's No Time At All" も収録されていますが、こちらはもともと "I Am" に入っていた曲。Pete Townshend はこの曲の作詞作曲にも演奏・歌にもかかわっていないらしいです。再度、問う。そんなん、アリか?(笑)

 Pete Townshend はこの後の1976年にも Meher Baba 財団のためのアルバム "With Love" を共同制作していますが、こちらには "Mahoney's Last Stand" の佳曲 "Just For A Moment" が収録されているとのことです。

Akido

Akido
Akido (1972)

 CDの解説文によれば「失われたアフロ・ファンクの傑作」だそうです。ロンドンで録音され、当時は北米のみの発売だったとか。

 メンバーは、ガーナ出身で The Rolling Stones や Paul McCartney 、Rod Stewart らの作品にも参加している Speedy Acquaye(パーカッション)、ナイジェリア出身の Biddy Wright(ベース)、ジャマイカ出身の Jeff Whittaker(コンガ)、それにロンドンで活動していた Peter Andrews(ギター)という編成。

 そしてプロデューサーがなんと Ronnie さん。当時だと Faces に在籍していた頃ですね。Speedy Acquaye とは友人だったそうです。

 なんといっても野趣あふれるリズムが特徴。薄暗い地下のクラブを思わせるような妖しげ感たっぷり。ボーカルにもっと強力な個性があればなぁと惜しまれる部分もありますが、音は現在においても古びておらず、ファンクとロックをいかがわしくもクールに融合させた好盤ではないかと。

 「最高とは言えないね。奴らを一つのグループとしてしっかりまとめておくのに失敗しちゃったんだ。リハーサルではすごくよかったんだけど、その次の木曜日にぼくがスタジオで待ってたら、リーダーが前回とは全然違うメンツを連れてきちゃって、おまけに別の新しい曲を山ほど持ち込んでまたリハーサルを始める始末でさ。」とは、Ronnie の談。プロデューサーとしては反省点が多々あった?

 後の Slim Chance とは大きく異なる音楽ですが、Ronnie がモッズであったことを思い出せば「なるほど」というところ。のどかさだけの人ではないことが実感できます。

 なお、Biddy Wright は一時 Slim Chance に在籍したこともあったとか。

Gasoline Alley

Gasoline Alley
Rod Stewart (1970)

 2019年に出た Ronnie のCDボックスセット Just For A Moment (Music 1973-1997) の解説によりますと、Faces 脱退後 Ronnie が構想していた音楽は、実は Rod Stewart の最初の2枚のソロアルバムに影響を受けたものだったそうです(その解説では「皮肉なことに」と書いています)。

 ということで、Rod の2枚めのソロ・アルバムです。Rod は Faces 加入以前に他のレコード会社とソロ契約を結んでいたため、ソロと Faces での活動を並行させていくことになります(そして、そのことが後年バンド内のトラブルの種になったことは Rod 自身、自伝で認めています)。本作では Ron Wood が全面的に参加している他、結局 Faces のメンバー全員が参加しています。音も Faces と地続きという感じです。

 Ronnie は "My Way Of Giving" と "You're My Girl (I Don't Want To Discuss It)" の2曲にベースで参加したとされています。"My Way Of Giving" はもちろん Small Faces 、Marriott / Lane の曲です。Faces のメンバーで演奏しているのですが、この曲だけちょっと異質で、Faces というよりむしろ Small Faces をバックに Rod が歌っているって感じです。

 当然ロックンロールもあるのですが、一方でヴァイオリンやマンドリン、アコースティック・ギターが効果的に使われ、Bob Dylan のカバーがあったりでフォーク/アコースティック色の濃い作品に仕上がっています。たしかに本作なら Slim Chance のアルバムの横に並んでいても違和感ないです。

 Small Faces のファンだったという Rod が Steve Marriott 脱退後に加入して Faces となり、加入後に作ったソロアルバムで Small Faces をカバーし、Ronnie は逆に Faces 脱退後に Rod のソロ作を念頭に置いた音楽を構想する・・・、確かに皮肉です。