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開店休業の記

今日の映画

セッションマン:ニッキー・ホプキンズ

 久しぶりに都内に出て映画を1本。って、前回もそんなこと言ってなかったっけ? しかも今回もロック物だよ。

 『セッションマン:ニッキー・ホプキンズ』です。英国ロック界きっての腕利きキーボード奏者・ニッキー・ホプキンズのドキュメンタリーです。10代で難病にかかり、その後も健康状態に問題があったため、活動の中心をセッションにせざる得なくなったのですが、それでいながら数々の名演を残したことで知られています。同業のイアン・マクレガンは自伝で「ピアニストとしてニッキーには太刀打ちできない。こっちが苛立ちさえ感じるような、信じられないくらい彼は才能に恵まれていた。」と語ったほど。

 副題が『ローリング・ストーンズに愛された男』とか、また、そういうのになってしまっていて、集客にストーンズ・ファンを当て込むのは仕方ないとして(この日のお客さんの目測平均年齢70前後とみました)、キース・リチャーズがイアン・スチュワートのことを「スチュが」と話すところ、字幕でそのまんまにせずにちゃんと説明入れようよ。ストーンズ・ファンならわかるかもしんないけど。だいたい、ストーンズだけじゃねぇぞ。彼はビートルズ、フー、キンクスの作品にも参加しており、60年代英国4大バンドをあっさり制覇しただけでなく、ビートルズの4人全員のソロ作に参加し、もちろんジェフ・ベック・グループはメンバーだったし、他にも有名どころの参加作品が目白押し。

 それだけに出演者も豪華。ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ピーター・フランプトン、ビル・ワイマン、グリン・ジョンズ、P.P.アーノルド、ビリー・ニコルズ、キンクスからはデイヴ・ディヴィス、ハートブレイカーズからはベンモント・テンチ、他にもたくさん(皆さん、お歳を召されましたな・・・と、映像観て、つくづく実感)。

 こうした作品にはありがちな礼賛調がずっと続くのですが、「こりゃ、まあ、しゃーない」と観ている方も諦めてしまうくらいのものがあります。上手いだけでなく、記憶に残るメロディを弾き、しかも異なるスタイルを見事に演奏できるという稀有の人(元々、クラシックの教育を受けていたとか)。でありながら、この時代のロック・ミュージシャンにありがちな無茶苦茶なエピソードはほぼゼロ。証言する出演者たちは口々に「エゴがない」「内気」「穏やか」と彼を語ります。優れた才能の持ち主の人格はそれに比例してイカれている、とは必ずしも言えないようです。なので、そうしたおもしろさはないのですが、彼の素敵な演奏が全編でたっぷり聴けたので、それで十分。

今日の音楽 ー 路線変更

Kafunta

 再発されたという情報をどこかで知り、久しぶりに聴いてみることにしました、P.P.Arnold 。オリジナルの発売は1968年、彼女2作めのアルバム "Kafunta" です。

 にしても、こういう人だっけ? デビューアルバム "The First Lady Of Immediate" の印象と違う気が。なので、そっちも聴き直してみたんですが、たしかに違う。

 といっても、彼女の声、歌い方が変わってしまったわけではなくて、違っているのはアルバムの方向性というか、プロデュースというか。ちなみにプロデューサーは、当時の発売元・Immediate Records の創設者、初期の The Rolling Stones のマネージャーとして知られた Andrew Loog Oldham 。

 一言で言ってしまえば、「ロックの歌姫」から、より一般向けの「ポップ・アイドル」に、という感じです。前半のカバー3連発が The Beach Boys の "God Only Knows" 、The Beatles の "Eleanor Rigby" に "Yesterday" というあたりで、ある程度察せられるかと思いますが、前作のロック色は大幅に後退、代わってかなり甘口の雰囲気重視の音に変化しています。

 わたしは前作の方が好きですが、「こっちがいい」と感じる人もいるだろうな。作品としてのレベルは決して悪くないです。

今日の音楽 ー 衝動の音

Entertainment!

 ネットラジオ・Radio Paradise で1曲聴いて気になったので、アルバムを入手。イギリスのポストパンクバンド Gang Of Four 、1979年のデビュー作 "Entertainment!" です。

 CDのブックレットに R.E.M. の Michael Stipe の言葉が載っていて、曰く、「 Entertainment! は、それ以前のすべてのものをズタズタに引き裂いた。」

 スカスカの空間でひたすら攻撃的にザクザクした音が響き続けるというものです。ひたすらにです。

 性急で硬いリズムにノコギリギター。

 パンク/ニュー・ウェイヴの時代に一瞬輝いた火花、あるいは生き急ぎの肖像。

 鑑賞するための「音楽的」な音楽じゃなくて、衝動を音にするとこうなる、というシロモノです。とにかく、音を鳴らせ、かき鳴らせ、と。

 とてもじゃないけど万人向けとは言えない、でも、こういう音を空気か水のように必要としている人、いるでしょうね。

今日の音楽 ー アフリカといっても広うござんす

Africa Ceremonial & Folk Music

 5ヶ月ぶりにノンサッチの「エクスプローラー50+」から、"Africa Ceremonial & Folk Music" ということで、東アフリカの音楽です。

 「エクスプローラー50+」でアフリカというと、去年ジンバブエの音楽を聴いていますけど、あちらはアフリカでも南部の方で、民族楽器ムビラを中心にした内容でした。

 こちらは東アフリカ、採録された地域はウガンダ、ケニア、タンザニアと3つの国にまたがり、異なる部族の人たちの歌が収められています。なので、ちょっとまとまりのなさは感じないでもないです。タイトルにあるように子守唄、戦士の歌、祭りの歌といった、フォークソング的なものが中心で、"The Soul Of Mbira" とは傾向が違います。

 一聴すると、「こっちがアフリカっぽい!」と。

 かなり偏見に近い感想ですが、わたしがアフリカ音楽と言われて、連想するのは "The Soul Of Mbira" の方ではなく、断然こちら。

 でも、聴いているうちに、日本の祭りの歌や仕事歌に共通する感じがあるようにも思えてきました。なんでだろ。もちろん、リズム感とかは全然違うんですけどね。

今日の音楽 ー 生涯一不良に徹すべく

Defiance Part 2

 Ian Hunter 、予告どおりに "Defiance Part 1" の続編が出ました。今年になって発表された "Defiance Part 2" です。

 今回もゲストが豪華。Def Leppard から Joe Elliott と Phil Collen 、Cheap Trick の現メンバー3人、Brian May に Lucinda Williams 、Benmont Tench 、前作にも参加していたFoo Fighters の故 Taylor Hawkins 、故 Jeff Beck と Johnny Depp ら。ひょえっ。つきあいの広さにびっくりです。

 1 、2 通じて、豪華なゲストに飲まれていないのが、えらい。「母屋を貸して」なんてところが全くなく、不良ジジイ Ian Hunter 流のロックンロールが展開されます。とにかく音がうるせぇ(笑)。実にロックらしいです。

今日の音楽 ー 轟音ギター女子

Pandora

 今回もアメリカ・テキサス州オースティンのラジオ局 KUTX のネット放送で知った人です。

 Wisp 、本名は Natalie Lu というサンフランシスコ出身の女の子。2004年生まれ。ブッッ!!?? まだ19歳だそう。ジジイは気ィ遠くなりそうです・・・。

 まだフルアルバムは出していないらしく、聴いたのは今年の4月に出た6曲入りEP "Pandora" です。

 KUTX でよくかかっていたタイトル曲が気に入ったので、発売を待って買いました。

 MONO を思い出すようなシューゲイザー/ポストロック系の、冬の冷え切った空気を塗りつぶすような轟音ギターに、つぶやくような、東アジア系らしい柔らかい歌声がのっかったメランコリックなメロディが、とても心地よいです。

 "See you soon" は My Vitriol を思い出したりして。

 Soccer Mommy とか Boygenius とか、最近、アメリカの若手女子にアタリが多いな。

 今後も期待。

今日の音楽 ー マイペース

A La Sala

 Khruangbin も今年新作が出ました。"A La Sala" です。

 前作、2020年の "Mordechai" から3年半ですが、印象は変わらないです。

 悪く言うと変化に乏しいわけですが、わたしは、この人たちはこれでいいんじゃないかなと思っています。

 わたしにとって、この人たちは、雰囲気もの、でありまして。この心地よいテレッとした空間を提供してくれるなら、細かいことであれこれ言う必要はないじゃないかと。

 つーか、この人たちの音楽、好きなんですけど、感想が言葉としてなかなか出てこない種類の音楽なんですね。聴いているとすごく力が抜けてリラックスできて、気がついたら終わっているという。聴いていて感性をビシビシ刺激される、いろいろ考えさせられてしまう音楽(そういう音楽の方が文章は書きやすい)の対極にあるような。

 力を込めて大絶賛したくなるような、そういう種類の音楽とは違うってことで、付け足しみたいですけど、いい作品ですよ。好きです。

今日の音楽 ー 声の存在感が抜群

愛 Kana

 「アイヌと奄美」で初めて聴いた里アンナ、今度は本人のアルバムを聴いてみました。

 「愛 Kana」、2018年に出たベストアルバムです。収録曲は、大半が奄美の島唄で数曲オリジナル。

 もう声の迫力がすばらしい。日本の歌い手で「叫び」がサマになる人って実は少ないと思っているのですが、この人は例外。スピーカーから出てくる声の音圧に、押されてしまう錯覚が起きるような。

 収録されている奄美の島唄は、朝崎郁恵のアルバムで聴いたことがあるものがいくつかあるのですが、同じ唄でもやはり人により解釈が異なり、違った印象を受けます。

 一方、音の処理やバックの演奏に、わたしの好みに合わないものが散見されるのは残念。伝統的な音楽に現代的な感触を持ち込むことに否定的ではないのですが、それが苦手な系統のものだとちょっとねぇ・・・。ほとんど偏見に近い感想ですが。

 「六調」のお囃しでは、ちょっとおきゃんな感じに歌い方が変わって、なんだかカワイイ。

今日の音楽 ー ひょっとして老害化しているかもしれないわたし

Come Around And Love Me

 いつものようにアメリカはテキサス州オースティンのラジオ局 KUTX のネット放送を聴いていたら、ちょっといい感じのソウルが流れまして。

 「おおっ、誰だろ? 70年代物かぁ、あのへん、あんまり詳しくないからわからんけど、気になるな。」と KUTX のサイトでアーティスト名・曲名を確認すると、Jalen Ngonda という知らない人。さらに調べると、その曲 "That's All I Wanted From You" は70年代どころか、去年2023年に出たアルバムの収録曲で、Jalen Ngonda その人は1994年生まれらしい。ブッッッ!?

 勘違いしたのは、わたしの耳が腐ってるからじゃないと思います、多分。

 YouTube とかにも音源はあるので、まあ、聴いておくんなせぇ。黙って聴かされたら、時代間違える人、続出だと思うんですけど。

 Jalen Ngonda はアメリカ・メリーランド州生まれで、お父さんの聴く音楽影響を受けたとか(なるほど、それか)。2014年に英国に移住して以来、そちらを活動の中心にしているそう。本作 "Come Around And Love Me" がデビューアルバムです。

 アルバムで聴いてみると、"That's All I Wanted From You" だけがそうだったってことじゃなくて、全編がそう。

 声も音もしっとりとした、聴いていて心地よい感じで、けっこう気に入っているのですが、戸惑いはなかなか消えません。今の時代に、これでいいの?

 今風のソウル系の音作りがあまり好みではないわたしとして歓迎してもいいのかもしれませんが、でもね、2023年にこんな、まんまのもの、作るってどうなのよ?

 むしろ、そういうこと、気にするべき時代じゃないんだ、こだわる方がおかしい、というのも薄々気がついて入るんですがね(苦)。

今日のネット配信

Somewhere You Feel Free

 「無料で1ヶ月お試し」ということで加入してみたネットサービスで、無料で観られる動画があるとかで。そのネットサービスに加入したのは別の目的だったんですが、せっかくだから何か観てみることにしました。

 でも、映像作品にはあまり関心がないので、アテがない。適当に検索かけていたら Tom Petty のドキュメンタリーが引っかかりました。

 "Somewhere You Feel Free" 、Tom の諸作の中でも特に評価が高くセールス的にも突出した結果を残した "Wildflowers" 制作の過程をとらえたものです。2021年公開。その前年に発見されたフィルムを元にした作品です。

 すでに主役が故人になってしまっているからなんでしょうが、やたら「 Tom はやっぱりスゴかったんだ!」ってな礼賛調が若干過剰気味で、クドさを感じてしまいました。皮肉屋でもあった Tom 本人がこれ観たらどう思うかな。そこは少し減点。

 そこを大目に見られるのであれば、やはり貴重な作品です。Tom のファンなら、"Wildflowers" が好きなら観ておくべきだと思います。

 「これはバンドの作品じゃなくて、シンガー・ソングライターの作品なんだ」という Tom の発言に、首を思いっきり縦にブンブン振ってしまいました。そうだよね。作風は明らかにそう。

 でも、「半分はバンドの作品」という Benmont Tench の言葉にも納得。結局、何らかの形で The Heartbreakers 全員参加ですから。

 その一方で、 "Wildflowers" 発表前にデビュー以来 The Heartbreakers に在籍していたドラムの Stan Lynch が辞めさせられ、代わって Steve Ferrone 加入に至った事情にも少し触れられています。このへんは、バンドの中心人物のソロ活動が周囲に与える影響、グループを長期間維持することの難しさが浮き彫りになっているようで、ちょっと胸が痛いです。

 Tom の娘さんによる「父はレーベルとの関係がよくなかった」という発言は、やっぱり・・・、としか(苦笑)。

 実は本作、YouTube でも無料公開されています。

 そういえば、ネットでそういう情報を見たことがありました。でも、その時は「音楽ならともかく、ドキュメンタリーなら日本語訳がないとキッツいな。日本語版が公開されたら観よう」と思って、それっきりになったんでした。

 今回、YouTube の方も確認してみたら・・・、日本語訳、ついてました。設定すれば字幕が付きます。・・・あああああ、またも凡ミス!