欲張って2本、映画を観てまいりました。
先に観たのが『お坊さまと鉄砲』です。『ブータン 山の教室』と同じ監督(パオ・チョニン・ドルジ)の2023年の作品です。少し前に『秘境ブータン』を読んでいたし、『ブータン 山の教室』も良かったので、今度はどうかなと。
2006年、ブータンでは国王が退位し民主制に移行することが決まった。しかし、ブータンではそれまで選挙が行われたことがなかったため、本選挙に先行して模擬選挙を実施し、まず国民へ理解を深めてもらうこととなった。模擬選挙まであと数日となったある日、僧侶のタシは師僧から、次の満月までに銃を二丁入手するよう、指示される。師僧の意図もわからないまま、タシは自身見たこともない銃を求めて、訪ね歩く・・・。
これは個人的に大当たり。とても楽しい映画でした。
『ブータン 山の教室』はスジがほぼ一本道といっていいお話でしたが、こちらは模擬選挙というイベントが進行する中で複数の登場人物の動向がからみあう複雑な展開。わりと先が読めた前作とは異なり、今回は「さて、これが次にどうなる?」というところで観る者を引っぱります。といって、サスペンスっぽいのではなく、コメディ寄りで楽しませてくれます。
選挙運動によって小さな村に対立が起きてしまうあたりは、単純すぎる民主主義信仰への控えめな風刺になっています。今も残る僧侶への敬意はブータンらしく。ある目的でブータンにやってきたアメリカ人は、言葉も通じず習慣も大きく異なる地で困惑しっぱなし。作品全体をブラックではない、明るく押しつけがましくないユーモアでつつんでいます。
現代のブータンの様子も興味深く、観どころいっぱい。ブータンに関心のある方はぜひ。
その一方で意味有りげに登場した人物やモノの意味が結局よくわからないままで終わるといった粗さもあったりして、ツッコミどころは少なくないとは思います。そういうのが気になる人には向かない映画かもしれませんが、このおおらかな物語、わたしは好きです。
蛇足。最初の方にあったブータンの都市の情景で、バックをうっすら流れていたのは Dire Straits の "Money For Nothing" でした。あれもなんか意味あるのかしら?
後に観たのが『紅夢』です。チャン・イーモウ(張芸謀)、初期(1991年)の作品です。
実はこの作品、20年くらい前にNHKでテレビ放送されていたのを中途半端なところから観たことがあり、以来ずっとちゃんと観てみたいなと思っていました。ただ、どういうかわけか、この作品、DVDも配信もなくてねぇ・・・。他のチャン・イーモウ作品の多くはあるのに、本作は何か事情が?
そんな状態だったのですが、今、本作を含むチャン・イーモウの初期作品3作の修復版が劇場公開されていまして、やっと最初から通しで観る機会を得ました。
1920年代の中国。まだ19歳の頌蓮は父を亡くし、生活苦から学業を諦めて富裕の旧家に嫁ぐ。しかし、すでに夫には別の3人の妻がいた。夫の歓心をひくため、暗闘する4人の妻たち。
原題は『大紅灯篭高高掛』、「紅い大提灯が高々と掲げられる」というような意味。妻たちは住居としてそれぞれ別の建物をあてがわれていて、夜、夫が泊まることを選んだ妻の建物に紅い大提灯がいくつも点灯されます。夫の寵、ひいてはこの家での待遇の差を意味するこの鮮やかな紅い提灯が物語の象徴になっています。
こう説明すると、「江戸時代の大奥物みたいなんか」と思われそうですが、一昔前の日本のそれみたいなお色気路線はまったく期待しないでいただきたい。なんつーか、ハードボイルドな作品です。冒頭から重い雰囲気がのしかかり、それが最後までほとんど途切れることなく続くという。
かつての旧家のよどんだ因習的な重苦しさを、特徴的な色彩の映像で描いた、という点ではむしろ市川崑の金田一耕助シリーズの方が共通点がありそうな気がします。しかし、あちらのような猟奇的な(例の逆立ちみたいな)描写はないのに、怖ろしい。むしろ数段、怖ろしい。
実は本作、裏のテーマは「権力闘争」ではないかと疑っています。中国映画ですんで。絶対的に君臨する夫(皇帝)に気に入られることによって良い待遇を得(出世し)、他の妻(政敵)を追い落とそうとする妻(廷臣)たち、そして逆らえば・・・、考えすぎ?
蛇足。最初に観てからずいぶん時間が経っていたせいか、自分の記憶と違う場面がいくつか。雨の中、召使いの雁兒が折檻される場面ってなかったっけ? 最後に頌蓮が見てはいけないものを見てしまう場面からの展開もあんなんだったけ? 別バージョンがあるのか? 単に年齢のせいで記憶が適当に改変されているからか?(悲)