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開店休業の記

今日の本

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2

 「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2」(ブレイディみかこ:著 新潮社)、読了。

 著者の息子さん(日本なら中学生)の英国での学校生活を中心にした身辺記の続編。

 やっぱり十代は成長が速い。何を今更な感想ですが。

 それにしても実際の国政選挙にあわせて学校で模擬選挙を行い、そのために授業で各党の政策を勉強するとか、音楽の授業でビジネスのことまで教え、興行担当としてコンサート会場の提案をするためのプレゼン資料を作れという宿題が出たりする英国の中学校って楽しそうに思えます。わたしもそういう勉強がしたかったな。こちらが思ってるほどあちらの実情はそんな甘いものでないのでしょうけど(他の箇所も読めばそれも感じます)。

 今回、(一部の人にとっては)衝撃的なのは英国生まれ英国育ちの息子さんが、学校の試験に出た「ビートルズの全メンバーの名前を挙げよ」という問題(そーいう問題が出るというところがまた)で間違えてしまったという事。しかもお母さん、音楽ライターでもあるのに。

 著者も言っていますが、そういう時代になったということなんですね。別のところで、今や音楽やスポーツは、道具を買ったり教室に通わせられたりする余裕がある家庭の子が優位になる、というようなことも書いていて、そういや確かにロック・ミュージシャンでも音楽学校出身なんて人たちが珍しくなくなりました。それが悪いこととは言えないでしょうが、貧乏人が成り上がる手段ではなくなってきているわけで、買う金がないからって楽器店からベースギターを借りパクしてそのままツアーに出て返さなかった人がロックスターになる( Ron Wood )とか、なくなるんだろうな。それが良いことかと言うと、う〜ん・・・。もちろん借りパクはダメですよ、ダメ。けどね。

今日の本

だんだんできてくる 道路

 「だんだんできてくる 道路」(鹿島建設:監修 イケウチリリー:絵 フレーベル館)、読了。

 「読書メーターで紹介されてたので読んでみた絵本」シリーズです。

 期間をあけて工程ごとに定点カメラで道路工事現場を撮影、それを絵本化した、みたいな内容です。おもしろい発想で、対象読者は小学校低学年からだそうですけど、大人が見てもおもしろいです。わたしが子どもの時なら何度も繰り返し読んだだろうな。

 道路工事、実際に現場をしょっちゅう見ていますし、この絵本に出てくる作業もよく目にしていましたが、それがどういう作業であって使われている道具はなんなのかって全然知らなかったので、勉強になります。大人バージョンがあってもいいかも。

 道路工事で使われる重機の紹介があったんですが、土を掘るアレ、わたしは「ショベルカー」っていうんだとばっかり思っていたんですけど、この本ではバックホウって書いてありました。正式にはそう言うの?

今日の本

すべての月、すべての年

 「すべての月、すべての年」(ルシア・ベルリン:著 岸本佐知子:著 講談社)、読了。

 アメリカの女性小説家(表紙写真の人)の短編小説集です。すでに亡くなっており、生前は無名であったそうです。わたしも全く知りませんでした。ところが2015年にこの本の短編すべてを含む作品集が出版されると、ベストセラーになり再評価されたとか。

 この本には19編が収められていますが、そのほぼすべてにおいて女性が主人公であり、その視点から語られています。教師、掃除婦、病院事務など様々な職業を転々としてきたという作者の経験がどうやら反映されているようであり、厳しい現実の中に置かれたアメリカ女性のある時期を切り取る、そんな感じの作風です。

 貧困、中絶、出産、不倫、暴行、薬物依存者矯正施設・・・。そうした生々しいことがらを情緒に流れず余計な修飾を排して、写実的に、ドキュメンタリーのように、むしろ乾いた文体で描いています。そして、簡明、的確な表現でスパッとこちらに切り込んできます。

 印象は鮮烈です。異国の、世代も違う男性としましては、正直「共感しました!」などとはなかなか言えない内容の作品ばかりなのですが、「こういう感覚はなかった、こういう視点で物事を見たことはなかった、こういう立場がどういうものか考えたことはなかった」と、自分がスキだらけであることを不意に指摘されたような気分です。

 驚いたことに作者は第二次世界大戦前(1936年)の生まれ。経歴を伏せられた上で読んでいたら、とてもそうだとは思わなかったはず。在世時に評価されなかったのは、作者が時代の先を進みすぎていたからではないでしょうか。

今日の本

戦国の忍び

 「戦国の忍び」(平山優:著 KADOKAWA)、読了。

 今も昔もフィクションの世界で大人気の忍者。その忍者のモデルは戦国の忍び。史料が少ないこともあって大衆人気はあるんですが(むしろあったから?)歴史学の世界ではキワモノ扱いされていた忍びを大真面目に調べてみたという、勇気ある一冊。

 本書によれば、忍び(透波、乱波、草など異名多数)は、現代のスパイと特殊部隊をいっしょにしたような存在だったようですね。照明がごく限られていて夜は漆黒の闇に沈んでいた時代、夜間活動は特殊技能であったとか。秘密裏の活動が中心なので、史料が少ないというのもうなずけます。しかし、彼らの任務は重要で、限られた史料からも戦国大名たちが彼らを多数召し抱えており、その活動の成果如何によって局面の帰趨が左右されたであろうことが理解できました。

 一方で彼らの多くが悪党、アウトローの出自で、雇い主である大名からも鼻つまみ者扱いされていた形跡もあるとか。このあたり、フィクションと実像との落差にショックを受ける方もいそうですが、それもまたよし、歴史を知る楽しみよ。

 著者は甲斐武田氏関連の著作をいくつも出している日本史研究者ですが、忍びについて本格的に調査を始めたのは、ここ5,6年のことだそう。先行研究も少ない中、ご苦労があったろうと思います。ためか、史料収集とその紹介に手いっぱいで考察はまだこなれていない感もありますが、まだこれからの分野ですし。今後の進展に期待。

今日の本

物語北欧神話

 「物語北欧神話 上・下」(ニール・ゲイマン:著 金原瑞人・野沢佳織:訳 原書房)、読了。

 今はほとんどしなくなりましたが、昔はコンピューターゲームのRPGとか、そこそこやっていました。登場するキャラクターには古今東西の神や怪物、武器などが借用されているわけですが、北欧神話関連が使用される頻度がかなり高かったのをおぼえています。オーディンとかワルキューレとかフェンリルとか。なので、そうした神様や怪物の名前はなじみがあるんですが、北欧神話自体はよく知りませんでした。

 たまたま、この本を見かけてそのことを思い出し、読んでみました。

 著者はイギリスの小説家。エッダと呼ばれる文献群から、著者が再構成し語り直した北欧神話が本書です。英語圏ではかなり人気のある小説家なのだそうで、たしかに読みやすかったです。原典にはかならずしも忠実ではないのかもしれませんが、初心者にとってはこういったものの方が入っていきやすいと思います。ほぼ名前だけしか知らなかった神様が、実はどんな神様だったのか、ようやく知ることができただけでもちょっと嬉しい。

 おそらく西洋ファンタジーの源流なのでしょう、この独特の世界観。神も、神の敵も、ともに滅んでいくというラグナロクを前提とした物語。キリスト教文化に染まったそれとはまた別のヨーロッパの顔が、ここで垣間見えます。おもしろいです。ところどころお話に矛盾や飛躍はありますが、そこはそれ、神話ですから。

 それにしても、現代的な倫理からすると「神様、そんなことして、よろしいんですか?」と尋ねたくなるような行いがいっぱい。神様たち、敵対者はガンガン騙して殺してます。神話ならよくあることでしょ、と言われればそれまでですけど。

 せっかく先方がこちらの申し入れを「お受けしましょう。九夜お待ちください」と承諾してくれてるのに、「やだい! 九夜も待てないっ!」って・・・、あなた、神様でしょうに。おもちゃ売り場の五歳児ですか・・・。

今日の本

ヨーロッパ・コーリング・リターンズ

 「ヨーロッパ・コーリング・リターンズ」(ブレイディみかこ:著  岩波書店)、読了。

 この前、同著者の旧作の「DELUXE EDITION」を読んだのですが、今回は別の旧作の「リターンズ」です。おいおい。どうなってるんだ。

 元の「ヨーロッパ・コーリング」は2014年3月から2016年2月までのヨーロッパの政治情勢レポートだったのですが、その後2021年までに各所で掲載された時評を追加収録したもの。追加分の方が多いくらいなので、元のを既読であっても、あらためて読む価値はあります。

 追加分の最初の方はやはりブレクジットがよく取り上げられていたのですが、2020年3月以降はコロナ関連が圧倒しています。そうだよね。やっぱり。こちらもあれからの経過を思い出し、「ああ、あれから2年も経っちゃったのか」となんとも言えない気分に。

 そういえば英国はコロナ蔓延初期に集団免疫獲得で対応しようとしていたらえらいことになってしまって、首相まで感染して死にかけるという事態に、一転してロックダウン実施。そうした状況に英国の庶民は、というところを現場目線で報告しています。

 著者の他の本でも感じることですが、英国の庶民の共助精神はまったく大したもので、頭が下がります。ただ、それがなかったら、とっくに社会が崩壊していたんではないかと思われる危うさも同時に感じます。

今日の本

将軍・執権・連署

 「将軍・執権・連署」(日本史史料研究会:編 吉川弘文館)、読了。

 前によく似た題の本を読んでます。日本史史料研究会の監修で同じ出版社から出た「鎌倉将軍・執権・連署列伝」(以下、『列伝』)ですね。本書は『列伝』出版に合わせて開催された2回の公開シンポジウムでの報告・質疑内容を元にしたもので、『列伝』の展開編というものだそうです。

 実際、『列伝』が鎌倉幕府の将軍・執権・連署35人の簡潔な伝記集であったのに対し、こちらは前記シンポジウムであがった将軍・執権・連署に関連する各論点を8人の著者がそれぞれ考察するというものになっています。ですので、本書の前にまず『列伝』の方を先に読むのがよさそうです。

 矛盾(本来家臣である北条氏が主君である将軍の廃立を繰り返す)を抱えながら試行錯誤を重ねたものの、その最期まで安定した機構を整備しきれなかったのが鎌倉幕府、という印象を持っていたのですが、本書でもその苦しさが伝わってくるというか。展開が複雑(将軍が源家・摂家・皇族と系統が代わったり、執権イコール最高権力者とは限らなかったり)で理解しにくいことが多い時代ですが、その分、おもしろいとも言えるかと。

今日の本

進化の技法

 「進化の技法」(ニール・シュービン:著 黒川耕大:訳 みすず書房)、読了。

 研究者による、進化生物学の歴史です。

 直感的には「羽は鳥が空を飛ぶために進化させた」、「肺や足は魚が陸上に進出するために進化させた」と思ってしまいそうですが、本書のプロローグによれば、いずれも正しくないそう。

「何事も、当然のことながら、私たちが始まったと思った時に始まっているわけではない」(アメリカの劇作家・リリアン・ヘルマン)

 著者によれば、この言葉が進化の謎を理解するための重要な鍵となる、としています。

 幼型成熟、同じ遺伝子の使い回し、勝手にあちこち飛び回り自分のコピーを作る遺伝子、侵入してきたウィルスの機能の取り込み、収斂進化に異なる細胞の融合、その「技法」はさまざま。

 話題が豊富で楽しいです。原著は2020年の出版ですので、近年の革新著しいこの分野で、最新に近い進化生物学の見解をわかりやすく紹介しています。

今日の本

不確実性を飼いならす

 「不確実性を飼いならす」(イアン・スチュアート:著 徳田功:訳 白揚社)、読了。

 我々はどんなことなら正しく将来を予測できるようになったのか、どの程度正しく予測できるようになったのか、そしてどんなことが予測「できていない」のか、について歴史的な展開をたどりながら語るポピュラーサイエンスです。

 著者は数学者。6人目のストーンズではありません(誰が間違えるんだよ)。また、多くのポピュラーサイエンスの著者でもあります。

 やはり著者の専門である数学の話が中心。前半は確率や統計の話が多く、個人的に少し勉強していたのでついていけましたが、カオスが出てきたあたりで理解が怪しくなり、終盤の量子力学関連では一応読み通したものの、やはりよくわからないという結果になりました。

 ただ、定説となっている量子の不確定性に疑問を持ち、量子力学の世界を決定論の立場から理解しようと試みる研究者が、少数ながらいて挑戦を続けているという話はちょっとした驚きでした。量子の不確定性も確定したわけではないと。なるほど。

今日の本

アフガニスタン史

 「アフガニスタン史」( 前田耕作・山根聡:著 河出書房新社)、読了。

 アフガニスタン史概説の本です。

 紀元前からの長い歴史のある国なので、付録年表を含めても250ページ程度の本では詳述は不可能で、近代以前は駆け足、内容の中心は19世紀以降です。また、2002年に出版されたものなので、アメリカでの同時多発テロ直後までの記述となっています。近年の情報を知りたい場合は、別書をあたる必要があります。

 アフガニスタンは、古くはアレクサンドロス大王、チンギス・カン、ティムールといった恐るべき征服者が去来した土地であり、「西遊記」の三蔵法師のモデルとなった唐僧・玄奘はここを経由してインドへ向かい、帝国主義の時代には南下を狙うロシアとこれを阻止しようとするイギリスのにらみ合いの場となった、ユーラシアの十字路とも言うべき位置にあります。

 日本にはあまりなじみのない地域であり、登場する人物も聞いたことがない名前ばかりで、きちんと頭に入ったとは正直言えません。加えて、その地理条件から歴史展開は複雑かつ混沌としており、本1冊読んだくらいで理解できるものではない、ということがわかったのが収穫でしょうか。