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開店休業の記

今日の本

絶望を希望に変える経済学

 『絶望を希望に変える経済学』(アビジット・V・バナジー/エステル・デュフロ:著 日本経済新聞出版)、読了。

 2019年ノーベル経済学賞を受賞した二人の経済学者による、「現代の重大な問題に対して、経済学は何が言えるのか」という一般向けの本です。

 本書によると、2017年に行われたインターネットでの世論調査にあった「以下の職業の人たちがそれぞれ自分の専門分野についての意見を述べた場合、あなたは誰の意見をいちばん信用しますか?」という質問で、1位を獲得したのは看護師で84%が信用すると回答したそう。これに対し、経済学者は25%で下から2番めだったそう・・・。ちなみに最下位は5%の政治家で、これはまぁ、わかります。

 そんな経済学ですが、いろいろな問題についてちゃんと有用な成果もあげているんですよ、というわけで、移民、自由貿易、経済成長、気候変動などについて、最新の経済学の観点から論じていきます。

 なかなか中身の濃い本で、あまりに多くのことが盛り込まれているので、個人的にはちょっと消化不良気味。でも、難解というわけではなく、文章もお堅い内容にしては読みやすい方だと思います。

 一つ思ったのは、経済学って心理学に通じるものがあるのではないかと。

今日の本

Had Me a Real Good Time: The Faces

 "Had Me a Real Good Time: The Faces"( Andy Neill:著 Omnibus Press )、読了。

 2011年に出た「史上最強のB級バンド」 Faces の評伝です。

 3部構成で、第1部はメンバー各人の経歴を誕生から Faces 結成まで。第2部は結成から Ronnie Lane 脱退まで。第3部はその後 Rod Stewart の脱退宣言による事実上の解散を経て本書執筆時点までの動向、となっております。加えて、ディスコグラフィー、BBCへの出演記録、コンサートリストに参考文献と、質量ともにこれ以上を望むのは難しいかと思われるくらい充実しています。まさに労作というのにふさわしいもので、80年代以降の再結成を除けば、実質6年ほど活動期間だったバンドについて、これだけの本にまとめたくれた著者に敬意を表したいところです。

 個人的には思うことがありすぎて、さて何から書いたものかと悩んでしまうくらいですが、まず残念なこととしては、2023年の現時点に至るまで邦訳は出ていないということ。とりあえず原書を発売直後に買った上で、ずっと待ってたんですけど・・・。いつまでたっても出ないので、結局買ってから12年後に原書を半年近くかけて読むハメになりました(苦)。

 先に Ronnie Lane の伝記 "Can You Show Me A Dream? The Ronnie Lane Story" を読んでいたのですが、こっちを先に読むべきだったなと感じています。"Can You Show Me A Dream?" はインタビュー等の口述された記録のみから構成されており、関連する解説・補記等がまったくないため、状況がかなり把握しにくかったです。先にこれ読んでいれば、すんなり理解できたところが多かったなと。

 本書はオーソドックスな構成の評伝で、確認可能な事実と関係者の発言を軸に、基本は時系列順に彼らの歩みをていねいに記述していくというものです。内容はとても詳細。当時の音楽業界の様子やメンバーの交友関係や家族についてもわかりますし、興味深いエピソードもいっぱい。

 一つ挙げると、2作目のアルバム "Long Player" 収録の "On The Beach" は、Ronnie Lane と Ron Wood が自宅で飲みながら(結局、ソレかい・呆)作ってカセットテープに録音したものが元だそう。後でスタジオでちゃんとレコーディングしようとしたんだけど、どうしてもノリがうまく出せなくて、しかたなくそのカセットテープの音に Mac の鍵盤をオーバーダビングしたのが、最終的にアルバムに収録されたバージョンになっちゃったということです。道理で "Long Player" の他の曲と音の感触が違うわけだ。あのお気楽な雰囲気はまさに一杯機嫌だったという。これが Faces です(笑)。

 予想はしていましたが、後半は辛い話が多かったです(泣)。

 Ronnie Lane についていえば、事務手続きとか契約とか段取りとか、そういうのに拘束されるのがメチャメチャ嫌いだったんだろうなという印象を受けます。問題が起こるとバックレるし、おまけにあんな顔して(失礼)、一度決めると他人の言うこと聞かない人だったらしく。そういうところが Faces 脱退後の経済的破綻につながったと思われるだけに、「 Ronnie 、もうちょっとちゃんとやろうよ? ねっ?」と言いたくなってしまいます。でも、書類仕事なんかをテキパキ処理できるようなタイプに、あの音楽が作れるかというと・・・、ねぇ?

 Ronnie Lane 贔屓としましては、どうしても Rod Stewart には厳しい目を向けてしまいますが、でも、悪い人じゃないんだよね、きっと。腰の据わらない人っていう印象はどうしてもあるんですが(苦笑)。なんか発言がフラフラしてるし。本書のイントロで著者に早速書かれていますが、もともとはわりと内気な人で、生まれついてのスーパースターな人では全然なかったらしいです。たまたま時代の波にのっかって大成功した人であると同時に、時代の波にあらぬところへ流されちゃった人でもあるような気がしてます。

 Ron Wood は、やっぱりいい人っぽいぞ(笑)。しかし、著者によると、どうも彼の記憶はアテにならないらしい(再笑)。Mac が自伝を出した時、「おまえ、本書くなんて、言ったことなかったじゃねーか・・・。でも、オレ、なんにも思い出せないから、おまえが書いてくれて、それでかえってよかったかもな」とか、自分で言ったらしいです。

 その Mac は、実は暴れ者だったらしい。

 で、Kenney Jones は、本書発表時点ではけっこうな資産家になっていたらしい(詳細不明)。意外!

 等々。

 がんばって読んで、ほんとうによかったです。

今日の音楽 ー 悪くない。けど。

Color Theory

 去年新規開拓で聴いた "Sometimes, Forever" がとても気に入った Soccer Mommy 。気に入ったので、他の作品も。

 現時点でも最新作は "Sometimes, Forever" なので、さかのぼってその前のアルバム、2020年の "Color Theory" を。アルバムとしては2枚めになります。

 うむ、悪くない。けど。

 いいメロディがあちこちにあるし、Soccer Mommy こと Sophia Allison の歌声は魅力十分(わたし、彼女の声、好き)。ですが、良さが断片的(変な表現)で、全体的には「惜しい・・・」という感じです。

 なんつーか、作りが女性シンガーソングライター系にありがちな無難な路線という印象で、これだと不穏と繊細が同居する彼女の個性を表現しきれていないような気がしてます。最初に聴いたのがこの作品だったら、あまり記憶に残らなかったかもしれません。

 ここから "Sometimes, Forever" までに彼女の表現力が大きく向上したということかな。"Sometimes, Forever" のプロデューサーが合っていたということでもあるのかな。

 "Bloodstream" が好きです。

今日の本

黒い海

 『黒い海』(伊澤理江:著 講談社)、読了。

 ノンフィクションです。昨年、発表され、非常に高い評価を受けている作品です。

 2008年6月、房総半島犬吠埼の東350kmの海上で休止中だった漁船が、突如として転覆沈没した。乗組員20名のうち、生存者3名、死者・行方不明者17名。国の事故調査は原因を「波」とするが、生存者の証言や複数の専門家の指摘とは食い違っていて・・・。

 なお、この件についての運輸安全委員会の船舶事故報告書は下記のリンク先で見ることができます。

 事故発生前後の状況から国の対応、生存者・関係者・専門家の見解、遺族の心境、漁船を所有していた会社社長の苦悩、調査報告の不審な点とその検証、世界で起きている同種とおぼしき事故の数々。こうしたことをケレン味なく実直に追っています。著者はフリージャーナリストですが、海難事故についてはこの事故の調査を始めるまで専門知識はなかったそうで、それがかえって幸いしたのか、やはり知識がない一般の読者に寄り添うような記述で理解しやすいです。

 いくつかの候補のうち、著者が最も疑わしいとしている事故原因(ここでは伏せますが)については、意外の感はありませんでした。というのも、本書で紹介されている世界各地の同種とおぼしき事故のうち、日本船が沈没した2例のことは記憶している世代だからです。

 意外に思ったのはむしろ、日本の海難事故調査体制の貧弱さ、そして同種とおぼしき事故の実例の多さ、でした。そして、心配になったのは日本の情報公開制度。形骸化しているのでは?

 評価が高いのも納得の、読み応えある内容です。

今日の本

日本で軍事を語るということ

 『日本で軍事を語るということ』(高橋杉雄:著 中央公論新社)、読了。

 著者は防衛研究所所属の軍事・安全保障論の研究者。

 この書名は・・・。これにしたのは、著者かしら? 出版社かしら? どちらにしても、これはいけません、やりなおし。と、わたしは思います。

 これだと、軍事・安全保障論にあまり理解があるとは言えない日本(「あとがき」で著者はそう言っていますし、わたしもそうだろうなと思います)で、専門家の立場からそれを語り、理解を得ることの難しさについて綴った本かと誤解しそうです。つーか、「ミスリーディングさせるためにこんな題にしたの? それにしても裨益するところはなさそうだが?」とムダな疑いをかけたくなるくらい、中身は全然違います。

 単純に副題の『軍事分析入門』にしとけばよかったのに。あるいは『現代軍事の基礎知識』とか(これだとパクリっぽくなってしまうけど)。つまり、そういう内容です。そして、内容はなかなか良いと思います。

 「なぜ軍事の知識が必要なのか」から始まり、現代の戦争とはどんなものか、陸海空それに宇宙・サイバー空間の各戦場の分析、そして日本について、という構成です。

 一般向けでわりと読みやすいとは思いますが、おもしろおかしくウケを取りに行った文章ではなく、大学の〇〇概論のテキストっぽい、手堅い感じです。

 特に興味深かったのは今年度(2023年)の国家予算で論議を呼んだ防衛費の大幅増額について。今年の7月に出たばかりの本なので、そうしたことにも触れています。この増額分は部隊の増設や新兵器導入に使われるのではなく、燃料・弾薬・修理用部品等の不足解消といった、いわゆる継戦能力の向上に使われる見通しなのだそう。見栄えのする正面装備ばかり優先して、補給が軽視されているというのは、もうずっと前から言われていたのですが(旧軍以来の悪しき伝統?)、ようやく配慮することにしたのは悪いことではないかもしれません。しかし、かかるお金がねぇ・・・。

動作報告

UCAM-C820ABBK

 Webカメラを買いました。エレコムの UCAM-C820ABBK です。

 Linux Mint 20.3 MATE 64 bit 、Microsoft Teams と Zoom のテストミーティングでカメラ、マイクともに動作しました。

 追加のソフトウェアインストールなしです。特に設定も必要ではありませんでした。

 今の Linux は、わりと何でも動くのね。

今日の本

人間がいなくなった後の自然

 『人間がいなくなった後の自然』(カル・フリン:著 木高恵子:訳 草思社)、読了。

 人間が自らの活動によりその環境を大きく損なってしまい、結果としてほぼ放棄せざる得なくなったような土地を訪ね、そこで感じたことを語る。石油採掘の後に残された廃棄物の山、民族紛争を抑止するために設定された緩衝地帯、失敗した計画経済下の農地、放射性物質で汚染された土地・・・。

 著者はスコットランド出身のジャーナリスト。

 まあ、よくこんな気の滅入るような場所ばかり訪ね歩いたものだというのを、まず感じます。読んだ限りではどこもわたしはあまり行きたいとは思えないのですが、著者はこういった場所が嫌いではないらしいです。暗澹とした光景の描写の中に、著者のどこか高揚した様子が同居しており、読んでいて少し不思議な感じがあります。社会問題の調査の記録というジャーナリストらしい側面もあるのですが、むしろ著者の感性が捉えた廃墟の相貌、といった風味のエッセイの要素の方がより濃厚というか。

 もう一つ、印象に残るのは、書名のとおりの、人間がいなくなった後の自然、です。人間が荒廃させ、その結果、人間の手には負えなくなり、人間が放置した土地がたくましく再生していく、というのは確かに希望ではありますが、その一方で我々人間は何をすべきなのか、何をすべきでないのか、ますます迷いが深まりそうな気もします。

今日の音楽 ー 見つけました!

PAYKAR

 2016年に映画『kapiw(カピウ)とapappo(アパッポ)~アイヌの姉妹の物語~』を観まして。

 kapiw と apappo 二人の歌うシーンがとても良かったので、もっと聴きたいなと思ってCDか何か出てないかと探したのですが、見つけることができませんでした。

 (その後、Amamiaynu や『アイヌと奄美』で少し聴くことができました。)

 今年、北海道を旅行した折、宿泊先でたまたま Kapiw & Apappo 名義のCDが置いてあるのを発見! 帰宅してすぐに調べてみたら、映画が上映された2016年に出ていました・・・。調べが甘かったのね・・・、反省。

 そのCDがこれ、『PAYKAR』です。

 手拍子に apappo によるトンコリやムックリの演奏、それとサウンドスケープということでさまざまな音が控えめにのっていますが、基本的には二人の歌で構成されたシンプルな音です。

 これは良いですね。映画を観たときも感じたことですが、二人の声、節回しがとても心地よい。ふわ〜っとした気分になって、いつのまにか最後まで聴いてしまっています。

 意外にもサウンドスケープのエレクトロニカっぽい音とも相性がよいです。

 「もうちょっと、世間に知られてほしい!」と思う作品です。

今日の本

人はどう死ぬのか

 『人はどう死ぬのか』(久坂部羊:著 講談社)、読了。

 著者は医師で小説家。医業では、外科医、麻酔科医、外務省の医務官、終末期医療や在宅医療にも取り組み、多様な経験を持つ著者が語る、死の現場と現実です。

 人によると思いますが、わたしは本書に書いてある内容に驚きはなかったです。看取りの経験がそうあるわけでもないのですが、「ああ、やっぱりそんなものなのね」というのが感想です。ある程度予想していたことの再確認というか、そういう読書になりました。

 とは言え、わたしも病気になったら何も考えず病院に行ってしまいそうです。治りたいからとか死にたくないからとかいうことでもなく、単に「病気になったら病院に行くものだ」と半ば自動的にそうしてしまう頭になってしまっているからです。なるほど、病気になっても病院に行かなければならない、ってこともないのですね。気がつきませんでした。そこは収穫かな。

今日の本

Reactハンズオンラーニング 第2版

 『Reactハンズオンラーニング 第2版』(Alex Banks/Eve Porcello:著 宮崎空:訳 オライリージャパン)、読了。

 React は ユーザインタフェースのための JavaScript ライブラリです。本書はその入門書。「まえがき」によりますと、対象読者は React の予備知識は不要で「HTML 、CSS 、JavaScript の最低限の経験」を持つ人だそうです。「最低限の経験」というのもなかなか微妙ですが。

 本題の React の学習に入る前に、「React学習に必要なJavaScriptの知識」という章があります。読み進めるとわかるのですが、JavaScript は機能拡張により10年前とは大きく変化しているため、jQuery 登場あたりで知識の更新が滞っていると、React のコードが理解できません。そういう人(わたしのような・苦)向けの章です。次に「JavaScriptにおける関数型プログラミング」という章があり、これも先の章を理解するために必要な知識の予習ということになります。それから、ようやく本題になります。

 それからの章は、React の基本に始まり、実際に動作するコードを例示しながら主要な機能を説明していきます。テストについても記載があります。

 説明はかなりていねいでわかりやすいです。対象に該当する人なら最初の1冊としてよいかと思います。ただ、ある程度の規模の動作するアプリを、一から順を追って作ってみる章などがあると、もっとよかったと思います(それやると、本が厚くなりすぎるような気もしますが)。惜しい。

 それと本題以前なんですが、「React学習に必要なJavaScriptの知識」と「JavaScriptにおける関数型プログラミング」、とても参考になりました。これ、なかったら、全然理解できないとこでした(苦笑)。