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蕭寥亭

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今日の本

アメリカの新右翼

 『アメリカの新右翼』(井上弘貴:著 新潮社)、読了。

 最近のアメリカはいったいどうなってんだろ? と思うことが多く(まあ、日本もか・・・)、読んでみた次第。

 今年出たばかりで、現在のアメリカにおける右派の思想潮流、特に副題にもあるようにトランプ政権に近いところを知るには手ごろかと思います。著者は政治学の研究者。

 この前読んだばかりの『ナショナリズムの美徳』の著者ヨラム・ハゾニーも出てきます。あの人、イスラエルの人じゃん、と思ったのですが、アメリカで教育を受けており、アメリカでも活動していて影響力が大きいらしいです。ナショナル・コンサーヴァティズム(国民保守主義)、略してナトコンと呼ばれる一派の代表格だとか。ガザ侵攻の悲惨な状況が続くなか、本書執筆時点でもイスラエル擁護を強硬に主張しているそうです。予想はできましたが・・・。

 登場するアメリカ以外の論者はヨラム・ハゾニーだけではありません。フランスの極右思想家ルノー・カミュも、アメリカの新右翼に強い影響を与えているとして紹介されています。また、EUで問題児扱いされているハンガリーの首相オルバンが、アメリカの新右翼の間では人気が高いとのことで驚きました。新右翼の思想に国際的なつながりがあるというのは意外でもあり、皮肉のようにも感じます。

 本書で最も紙幅が割かれている人物は、オンライン決済サービス・ペイパルの共同創業者でペンチャー投資家でもあるピーター・ティール(ちなみに現アメリカ副大統領のヴァンスはかつて彼の部下だったそう)でしょうか。ほぼ1章丸々、彼と彼の思想の紹介に当てられています。にもかかわらず、彼の思想はわかりにくいです。

 テクノロジー重視というのはその経歴からすれば理解しやすいですが、従来の右派と比較すると異色です。ペンチャー投資家にして個人の自由と財産を最も重視するリバタニアンであるというのもまあわかりますが、競争には批判的で独占を高く評価し、その上、彼の思想にはキリスト教信仰が色濃くにじみ出ているとのこと。おまけに逆張り的な主張を好むということで、どうも一貫した人物像が浮かびにくいです。著者も重要な人物と紹介していながら理解しかねているような、そんな感じさえします。

 また、テクノロジー重視の右派としてもう一人、ウェブブラウザのネットスケープ・ナビゲーターを開発したマーク・アンドリーセンが出てきたのはびっくり。

 個人的にポイントと感じたところは2点。

 一つは、本書で紹介されている新右翼の思想は多様で(ある意味、まとまりを欠いた混沌状態のようにも見えます)ひとくくりにはしにくいということ。中には従来のアメリカの右派が伝統的に依拠してきた古典的自由主義すら否定的にとらえる(その意味では伝統重視の保守ではなく革新?)者が出てきています。

 それに関連しますが、もう一つは、左右両派をどこで線引きするか、難しくなっているということ。従来なら保守≒右派、革新≒左派とおおざっぱにとらえておけばそれなりに通用しましたが、テクノロジー重視で古典的自由主義軽視、でも宗教保守で西洋の伝統的価値回帰志向、となると・・・?