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開店休業の記

今日の本

戦国大名の兵粮事情

 『戦国大名の兵粮事情』(久保健一郎:著 吉川弘文館)、読了。

 「兵粮」といいますと、一般的には日本の武士の軍事行動に伴って必要とする食料、を指す言葉ということになるかと思いますが、戦国時代の実態からするとそれだけではない、ということを考察・解説し、同時に戦国時代の経済活動に目を向けた一般向け歴史書。

 著者は、あくまで食料として蓄積・消費される従来的な意味合いの兵粮を「モノとしての兵粮」、売却・貸付や他の必要物資との交換といった経済活動における流動資産的に使用されている兵粮を「カネとしての兵粮」とし、兵粮にはこの2つの側面があることに注目して議論を進めています。

 兵粮といったら、軍事行動の際には根拠地から輸送するものだとばかり思っていました。もちろん、そういう場合も多いようですが、目的地の近辺で購入するというやり方もあるわけですね。たしかに大量の食料を輸送するのはまさに「お荷物」なので困難がつきまとい、可能であれば代わりにはるかに持ち運びしやすい金銀貨幣でもって購入する方が合理的な場合もありうるわけですね。裏を返せば、そうした調達方法が可能になるほど、戦国時代ともなれば経済活動が発展してきていたということでもあるのだなと思います。平安時代あたりだと無理だったのでは?

 軍事行動がない時でも、ただ米麦を「モノとして」保管しているだけでは管理コストがかさむだけ。量に応じた場所や蔵が必要だし、火災・水害等による損失の可能性や時間経過による品質劣化もある。適宜売却して貨幣に持ち替え必要時に購入する、あるいは貸し付けて利子を取り、返却時に新米で受け取って品質劣化を回避する、というように「カネとして」運用した方がいい、ということにもなりそう。それはそれで別の問題も引き起こしているようですが、やはりそれも流通や経済の発展あればこそでしょう。

 「兵粮」という切り口から戦国時代の経済を探る、という観点は非常におもしろいです。なにせ戦乱の時代なので十分な史料が残っていないかもしれませんし、地方ごとの実情の違いもあるでしょうから、なかなか難しい分野だと思いますが、ぜひ進展させてほしいです。