『総員玉砕せよ!』(水木しげる:作 講談社)、読了。
作者といえば、『ゲゲゲの鬼太郎』に代表される妖怪漫画で知られていますが、こちらはアジア・太平洋戦争末期に南方で玉砕した日本陸軍のある部隊を描いたもの。作者によれば「九十パーセントは事実」とのことです。作者自身、もともと、この部隊に所属していたのですが、その前年に爆撃により左手を失う重傷を負い、後送されていたそうです。
かっこよくないし勇壮でもない、軍服を着ているだけで中身はそのへんの庶民という兵隊たちが右往左往し、そしてごくあっさりと死んでいきます。あまりにもあっさりと死んでいくので、悲劇的にも見えません。救いもなく、ただ、無残。無残。
武器も食料も不足する中、理不尽さだけはたっぷり。何をしてもしなくても殴られ、重労働に喘ぎ、勝ち目のない戦いを強いられ、どうにか生き残っても「死なねばならぬ」と強要される兵隊たち。そして、後になれば隣の地区の守備隊の隊長から「あそこをなんのために死守したのかわからない」と言われるような、無意味な戦場で死んでいく兵隊たち。
この作品には死んでいった人たちの鎮魂のため、という意味合いもあるのでしょうが、この無残な有様をそのままこちらへ投げつけるような表現からは、むしろ「あとがき」にあるように、作者のこの空しさに対する怒りの方が強く伝わってきました。