メニュー 蕭寥亭 検索

開店休業の記

今日の本

秘境ブータン

 『秘境ブータン』(中尾佐助:著 社会思想社)、読了。

 原著は1959年発表。植物学の研究者である著者が、当時インド以外の国と国交がなく謎の国であったブータンに特別な許可を得て日本人として初めて入国し、1958年6月からの数ヶ月、植物採集のため各地を探検した際の記録です。現国王の祖父で2代前の国王の時代になります。内容は植物関連にとどまらず、地理・気候・文化・風俗にまで及んでおり、近代化に本格的に取り組む前のブータンの姿をとらえた、貴重な記録ではないかと思います。

 文章は時代に相応してやや古めかしいところはありますが、読みにくくはありません。

 わたしがブータンと言われて思い出すのは、映画『ブータン 山の教室』。

 本書の当時、著者が国内で自動車を見ることはなかったというブータンも、それから60年を経た映画の時点では、首都は近代化が進んでいることが見て取れました。一方、映画でも僻地へは交通手段がなく、野営と徒歩の旅が描かれていました。本書を読みながら、「当時はもちろんそんな感じだったろうな」と映画の場面を思い出しました。また、峠には石の塚(ラプツエ)があると記されており、映画にも出てきました(はず。多分、あれだよな・・・)。著者の行程を巻末付録の地図で確認すると、残念ながら映画の主要な舞台・ルナナ方面には行かなかったようですが。

 ブータン探検と直接は関係ないですが、本書の出だしで今西錦司、桑原武夫、本多勝一といった名前が続けざまに出てきてびっくり。著者を含め、いずれも京大出身で登山家でもあったという共通点があるのですね。

 蛇足ですが、映画のことを思い出してちょっと検索してみたら、日本ブータン研究所という団体のおもしろいコラムを見つけました。ご参考まで。