『ある行旅死亡人の物語』(武田惇志・伊藤亜衣:著 毎日新聞出版)、読了。
先にネットで記事が配信され大きな反響を呼び、その記事を元に大幅加筆・再構成されて出版されたノンフィクションです。
2020年4月、兵庫県尼崎市で高齢の女性が亡くなっているのが発見された。身元不明。これだけなら珍しくないが、彼女は右手の指を全て失っており、彼女の質素な部屋にはそれに似合わぬ大金が残されていた。ネタに困ってネット巡りをしていた記者がたまたまこの情報を行き当たり、さほどの期待もなく役所の当該部署へ電話を入れたことから、さらに死者の不可解な境遇を知る。同僚とともに本格的な調査を始めるが、遺された情報は乏しく・・・。
ミステリーのような実話です。ただし、いくつかの事実は調査によって明らかになっていきますが、フィクションではありませんので全ての謎がスッキリ解けて結末というわけにはいきません。そこにもどかしさを感じる人も少なくないかと思いますが、一方で謎が残ったことによる余韻のようなものもわたしには感じられて、これはこれでもいいと思いました。
読んだ後に表紙を見直すと、ぬいぐるみを持った後ろ姿がまた違ったように感じられます。
謎の解明とは別に、記者の調査の過程も読みどころかと。始めから大事件であることがわかりきっている場合ではなく、この件のように当初は記事になるのかどうかもわからないことをどのように追っていくのか、その様子も記者本人が書いているだけに具体的でおもしろいです。かなり偶然に助けられているのもノンフィクションらしいです。
文章も読みやすく、高く評価されたのも納得。