『イスラエル』(ダニエル・ソカッチ:著 鬼澤忍:訳 NHK出版)、読了。
原題が "Can We Talk About Israel?"(『我々はイスラエルについて語ることができるか?』)、日本語副題が『人類史上最もやっかいな問題』。原著は2021年の発表。日本語版は2023年2月。
一般の読者に向けて理解しにくいユダヤ人とイスラエルの歴史を、主としてここ百年の現代史を中心に解説し、その上で現在のイスラエルが抱える(こじれるだけこじれてしまった)問題について語る、という本です。イスラエル、パレスチナ、さらにはレバノンでも目を覆うような惨事が続く現在、どうしてこんなことになってしまったのか、知る手がかりとなる本です。
著者はユダヤ系アメリカ人。立場上、イスラエル・パレスチナ問題について公平に語るのは難しいのではないかと考える向きもあるかもしれませんが、そうした懸念の目にも耐えられるような内容にすべく、著者が配慮に努めたことは読んで感じられました。
印象に残ったことはいくつもあるのですが、第一は著者の言う「ベン=グリオンの三角形」。
イスラエルの初代首相ベン=グリオンの語ったことで、イスラエルの国是となりうる要素は大きく分けて3つあり、一に「イスラエルはユダヤ人が多数を占める国家である」、二に「イスラエルは民主主義国家である」、三は「第三次中東戦争によって占領した土地を保有する」ということを指します。しかし、イスラエルはこのうち二つを選ぶことはできるが、三つ全ては選ぶことができないと、ベン=グリオンは指摘したそうです。
また、1995年に起きたイスラエル首相ラビン暗殺の衝撃は、わたしもおぼえています。イスラエルが和平に向けてパレスチナ側とともに交渉のテーブルにつき、ともかくもオスロ合意までこぎつけたのは、ラビンのカリスマ的指導力あってこそ、というのは当時から言われていたからです。現在の状況を思えば、返す返すも残念でなりません。
以前読んだ『イスラエル VS. ユダヤ人』は、イスラエルのアパルトヘイト国家化が進行していると厳しく批判する本でした。
本書の著者もあの本を意識していたのか、短い1章を設けて論じています。その上で、著者は簡単に答えは出ないとしています。
本書の解説を元外交官が寄せています。本書日本語版発売直前の2022年12月にネタニヤフがイスラエル首相に復帰したことに触れ、彼が「ベン=グリオンの三角形」の一と三を重視し、二についてはあまり関心がなさそうだと述べています。そして「残念ながら二〇二三年は、イスラエルとパレスチナの憎しみと恐怖の連鎖がさらに激しさを増す年になるかもしれない」と憂慮しているのですが、そのとおりになってしまいました・・・。