『「おかえり」と言える、その日まで』(中村富士美:著 新潮社)、読了。
著者は民間の山岳遭難捜索チームの代表。もともとは看護師をされていたそう(本書発表時点ではそちらも続けられているらしいです)で、十数年前にインストラクターとして参加していた救急対応についての講習会に山岳救助に携わる人がいたことをきっかけに、この活動に入られたのだとか。
副題「山岳遭難捜索の現場から」ということで、著者が実際に捜索を行った山岳遭難の事例を6つ紹介し、登山者はどんな時にどんな場所で遭難するものなのか、捜索はどのように行われるのか、そして残された家族は・・・、といったことを教えてくれます。
時々「〇〇山で登山者が行方不明、××人体制の捜索隊が・・・」といったニュースが伝えられますが、登山の経験がほとんどないわたしはピンとこないもので、ほとんどの場合流し聞きするだけでした。著者もこの活動に入る前は「どうして、こんな身近な里山で大けがをするのだろう?」などと疑問に思っていたのだそう。なるほど、こういうものなのですね。
事例の最初のものは埼玉と東京の境にある棒ノ折山での遭難。地図の地名に見覚えが。一昨年自転車で秩父に行く途中、埼玉県道53号経由で旧・名栗村(現・飯能市)地区を通ったのですが、遭難現場はわたしが通過した地点から3,4kmしか離れていない場所だったようです。それほど深い山だったような記憶はないのですが・・・。
文飾は少なく、簡潔な語りですが、とても読みやすいです。
良質なノンフィクションだと思います。