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開店休業の記

今日の本

黒い海

 『黒い海』(伊澤理江:著 講談社)、読了。

 ノンフィクションです。昨年、発表され、非常に高い評価を受けている作品です。

 2008年6月、房総半島犬吠埼の東350kmの海上で休止中だった漁船が、突如として転覆沈没した。乗組員20名のうち、生存者3名、死者・行方不明者17名。国の事故調査は原因を「波」とするが、生存者の証言や複数の専門家の指摘とは食い違っていて・・・。

 なお、この件についての運輸安全委員会の船舶事故報告書は下記のリンク先で見ることができます。

 事故発生前後の状況から国の対応、生存者・関係者・専門家の見解、遺族の心境、漁船を所有していた会社社長の苦悩、調査報告の不審な点とその検証、世界で起きている同種とおぼしき事故の数々。こうしたことをケレン味なく実直に追っています。著者はフリージャーナリストですが、海難事故についてはこの事故の調査を始めるまで専門知識はなかったそうで、それがかえって幸いしたのか、やはり知識がない一般の読者に寄り添うような記述で理解しやすいです。

 いくつかの候補のうち、著者が最も疑わしいとしている事故原因(ここでは伏せますが)については、意外の感はありませんでした。というのも、本書で紹介されている世界各地の同種とおぼしき事故のうち、日本船が沈没した2例のことは記憶している世代だからです。

 意外に思ったのはむしろ、日本の海難事故調査体制の貧弱さ、そして同種とおぼしき事故の実例の多さ、でした。そして、心配になったのは日本の情報公開制度。形骸化しているのでは?

 評価が高いのも納得の、読み応えある内容です。