
『人間がいなくなった後の自然』(カル・フリン:著 木高恵子:訳 草思社)、読了。
人間が自らの活動によりその環境を大きく損なってしまい、結果としてほぼ放棄せざる得なくなったような土地を訪ね、そこで感じたことを語る。石油採掘の後に残された廃棄物の山、民族紛争を抑止するために設定された緩衝地帯、失敗した計画経済下の農地、放射性物質で汚染された土地・・・。
著者はスコットランド出身のジャーナリスト。
まあ、よくこんな気の滅入るような場所ばかり訪ね歩いたものだというのを、まず感じます。読んだ限りではどこもわたしはあまり行きたいとは思えないのですが、著者はこういった場所が嫌いではないらしいです。暗澹とした光景の描写の中に、著者のどこか高揚した様子が同居しており、読んでいて少し不思議な感じがあります。社会問題の調査の記録というジャーナリストらしい側面もあるのですが、むしろ著者の感性が捉えた廃墟の相貌、といった風味のエッセイの要素の方がより濃厚というか。
もう一つ、印象に残るのは、書名のとおりの、人間がいなくなった後の自然、です。人間が荒廃させ、その結果、人間の手には負えなくなり、人間が放置した土地がたくましく再生していく、というのは確かに希望ではありますが、その一方で我々人間は何をすべきなのか、何をすべきでないのか、ますます迷いが深まりそうな気もします。