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開店休業の記

今日の本

映画を早送りで観る人たち

 『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史:著 光文社)、読了。

 かなり話題になった本ですね。著者はポップカルチャーやエンターテイメントビジネス等を主な執筆分野とするライター。2021年にウェブメディアに掲載された記事9本を元にしています。

 映画等の映像作品を再生速度を倍にしたり何秒かづつ飛ばしたりして、短時間で視聴する人が増えたことに気がついた著者が、そうした人たちの姿勢に違和感を抱きつつ、その実態を調査・考察した結果をまとめたものです。

 なお、調査会社によりますと、20〜69歳の男女で倍速視聴の経験のある人は34.4%、20代男女に限ると49.1%だそうです。ほお、たしかに案外多いものですね。

 本書の、当世若者事情についての部分はわりとおもしろかったです。わたしは若年層とあまり接点がないこともあって、「へえ、今の子たちはそんな感じなの」と。

 でも、若年層の育った時代の環境を考えれば「まあ、そんなものかもね」とも思い、特に違和感は持たなかったです。どうやら彼ら彼女らに対する強烈な違和感と反発を抱えてるらしい著者に、むしろ違和感があります。著者、わたしより若いのになぁ。

 著者は本書の「おわりに」で、元の記事を「中年世代の若者批判だ」と揶揄する声に対し、「本書を読み通された方ならおわかりのように、その謂は正確ではない」と述べています。いや、わたし、読み通しましたけど、「若者批判でしょ?」と思いました。

 このような習慣を持つ若年層に対する反感がどうにも文章ににじみ出てしまっているように感じましたし、元の記事9本のうち6本のタイトルに「若者」「大学生」って言葉が入っているし、倍速視聴する習慣があり本書にその発言が取り上げられている人のほとんどが若年層、これじゃ若者批判ととる方が素直なような気がします。倍速視聴の習慣のある中高年も調査すればよかったのに。

 新書化にあたり、まるまる書き下ろしで追加されたという最後の章では、新しい技術の登場により新しい習慣が広がるのは当然のこと、これも時代の流れ、と達観したような筆致で締めていますが、それまでの文章との落差は大きく、なんだか批判逃れのための付けたりに見えて仕方ありません。追加するなら「古いヤツだ、頭の固いヤツだと言われようとも、わたしは制作者がそれなりの思いをこめて作った映像作品を、このような形であつかうことには反対です」と堂々と言い切った方がよかったように、わたしは思いますが、そしたら批判の炎にガソリン投入、になった可能性も大で難しいとこです。