
『非科学主義信仰』(及川順:著 集英社)、読了。
本書の題である「非科学主義信仰」とは、現在のアメリカにおける「科学に対する不信感を露わにしつつ、自分たちにとって都合のよい "ファクト" をつまみ食いして、自分たちの正当性を強硬に主張する信仰にも似た姿勢」を指しているようです。著者が考えた言葉のようです。わたしはこの「非科学主義信仰」という題を見て、「科学を一切受け付けず、否定する宗教の一派」のようなものを予想してしまったので、ちょっとアテが外れた感じです。
著者は本書執筆時点でアメリカ駐在中だったNHKの記者。その経験を生かした内容で、登場する「非科学主義信仰」者たちの主張は、控えめに言っても「かなり奇妙」ですが、興味深く、現地取材者ならではの生々しさがあります。その一方で、「非科学主義信仰」者たちは科学を頭から否定しているという態度ではなく、時折自分の主張に「科学的根拠らしきもの」を織り込んでいるようです。「銃犯罪はメンタルヘルスの問題なので、銃規制強化は必要ない」という州知事の発言とか。これだと、「非科学主義信仰」というより、「科学ご都合利用主義」という方が近いような気がします。
ファクトチェックにAIを、なんて話が出てくるのもご時世ですが、それより実際にはフェイクニュース製造に使われるケースの方が多くなるんじゃないかと心配です。
国民の分断が進んでいるとされる、アメリカの現状の一端が垣間見える本です。著者も憂慮するように、日本もあんまり他人事ではないかも。分断の克服にはやはり対話と理解が必要だとは思うのですが、こんな状況でどうやってそれを進めたらいいのやら・・・。