
『一〇〇年前の女の子』(船曳由美:著 文藝春秋)、読了。
わたしが読んだのは2016年に出た文庫版ですが、単行本は2010年に出ています。「一〇〇年前」とは、そのほぼ百年前の明治42年(1909年)のこと。その年に関東平野北部のある農村で生まれた女性・寺崎テイの少女時代を、その生い立ち、当時の農家の暮らし、地域や学校の様子、年中行事とともに生き生きとした筆致で綴ったもの。寺崎テイは著者のご母堂です。単行本が出た年の暮に101歳でお亡くなりになっています。
この本のことは、文庫版の表紙絵を描いている安野光雅の画集『日本の原風景』で知りました。この中の「栃木県 足利の旧筑波村」という絵で、テイの旧宅が描かれています。それを見て、わたしも以前、足利に行った帰りに旧筑波村のあたりを通りがかっていたことに気がつきました。今でも田畑が広がっているところでした。それで何かひかれるものを感じて読んだ次第です。
読んでみて、まず「はじめに」に書いてあったテイの誕生年が、わたしの父方の祖父と一年しか違わないことに気がつきました。読み進めれば、祖父が子どもの頃の日本はこんな感じだったのだろうかと感慨が。もっとも、テイが関東の農村に生まれたのに対し、わたしの祖父は九州の商家の出。育った環境の違いは大きかったと思いますが、それでも通じるものはありそう。
身内にいないのでかつての農家の暮らし・習慣というものがまったくわかっていないわたしにとって、初めて知る興趣のわく話がたくさん。考えようによっては「たった百年前」の日本のことなのに、つい十数年前までご存命だった人の物語なのに、まるでおとぎ話を読むようでした。
感じたことがたくさんある、良い本でした。
今日の本 ‐ 『日本の原風景』