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開店休業の記

今日の本

政府債務

 『政府債務』(森田長太郎:著 東洋経済新報社)、読了。

 天文学的と言っていいような数値に達している日本の政府債務(財政赤字)を、どうとらえるべきか。問題は、危機は、あるのか。あるとしたら、どこにあるのか。そもそも政府債務とは、歴史的に、経済学的に、どのようなものなのか。経済学各派の主張のどれ、あるいは、どこが正しく、または誤っているのか。政府債務について、正面から、しかし扇情的ではない冷静な筆致で論じたものです。

 財政赤字といえば、2年ほど前にMMTと呼ばれるケインズ系の経済理論の入門書で、そのものズバリの題の『財政赤字の神話』を読んでいました(経済学の本としては、一般にもかなり話題になっていたと記憶しています)。

 本書でも、MMTとそれに対立する主流派経済学あるいは財政均衡主義について、かなり紙幅を割いて考察しています。著者は、このどちらかが正しい、という立場ではないようです。著者は政府債務についてリスクマネジメントの観点から取り扱うことを重視しており、その点、MMTが問題を抱えていることを指摘しつつ、むしろ主流派経済学の方がリスクについての認識不足は深刻かもしれないと、述べています。

 専門家でなければ読めないほど難しい文章ではないですし、数字と計算式が満載という本でもないですが、経済学の素養のないわたしでは残念ながら半知半解といったところです。また「財政赤字はこうすればいい!」と威勢よく処方箋を提示するような内容ではないので、わかりやすい結論が欲しいと考える向きには不満の多い内容かもしれません。しかし、わたしにとっては大変興味深い本でしたし、『財政赤字の神話』を読んでこの分野に興味をお持ちになった方には、ご一読をお薦めします。

 著者は、証券会社等で現在に至る30年以上にわたって日本の国債市場にかかわる仕事をしてきたとのこと。この経歴からすると、理論家というより実務家に近いように思えますが、それは少し意外でした。