『そこに工場があるかぎり』(小川洋子:著 集英社)、読了。
小説家の工場訪問記。なぜまた、小説家が工場に? ひょっとして業界誌での連載だったのかしらと思ったのですが、そういうこととは全く無関係で、著者本人が子どものころから工場に関心があり、工場についての本を作りたいと希望していたことから、実現したものらしいです。おやおや。
工場について書かれた本というだけなら、他にもたくさんあると思いますが、新聞の経済担当記者やノンフィクション作家の手になるものとは、描写の力点の置き方とか、見学したものに対する想像力の展開のしかたが、著者が小説家だからなんだと思うのですが、だいぶ違っているような感じです。
そのへん、人によって好みが分かれそうですが、わたしはふだん読んでいるものとの感触の違いがちょっとおもしろかったです。
「ポッキーの軸とプリッツは実は全く別物」(グリコの工場)とか、競技人口の裾野を広げ、生涯楽しめるスポーツにするために「課題は指導者の意識」(競技用ボートの工場)とか、街で保育園のおチビたちが何人も乗っているワゴンのようなカートのようなあの乳母車には「サンポカー」という名前がつけられている(乳母車の工場)とか、鉛筆の芯の材料・黒鉛には「鉛」という漢字が使われているがその成分に鉛は含まれていない(鉛筆の工場)といった、知って楽しい豆知識や共感できる言葉が幾つもあって、そこもまた良かったです。