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開店休業の記

今日の本

鎌倉幕府抗争史

 『鎌倉幕府抗争史』(細川重男:著 光文社)、読了。

 勝手に副題を「漂流する史上初の武家政権」とか、つけたくなる内容です。

 組織の未整備、構成員の経験不足をリーダーである源頼朝のカリスマ(と僥倖?)で補ってなんとか運営されてきた初期鎌倉幕府が、彼の突然の死とともに抗争が抗争を呼ぶ混沌の巷と化していた時期を解説するというものです。

 当時の武士といえば、「一所懸命」で自分と自分の目の届く範囲のことを考えるのが精一杯。頼朝の死後、幕政を担うことになった上層の御家人連中といえど、幕府草創以前は天下国家のことなど思いもよらない「統治される側」であったのが、あっという間に「自分周辺」以外のことにも対処しなけりゃいけない「統治する側」へまわることに。でも、思考も行動様式もそれに追いつかず、問題解決には、つい元々の本業であった武力行使が手っ取り早く・・・、ということでしょうか。そんな気がします。

 北条時政は、比企氏打倒に成功した代償として、主筋、しかも自分の孫やひ孫まで殺すことになってしまい、「毒喰らわば皿まで」的心境になってしまっていたのかしら? さらには後継者にと大事に育てた末息子が、官位を得てこれから京都・官界で華やかに社交デビュー!というまさにその時に、あろうことか10代の若さで急死してしまうという悲劇に遭い、異常な心理状態になっていたのでは? 畠山重忠だって娘婿だし、その子で畠山氏追討時に真っ先に殺された畠山重保なんか実の孫なのに・・・。どうも、時政・牧の方・牧の方所生の子・その婿たちと、政子・義時らの時政の前妻の子たちの間には、けっこう早くから溝があったんでは、とも考えてしまいます。

 著者の過去の作とは毛色が異なり、オーソドックスな歴史書的な著述スタイルになっていて、『頼朝の武士団』や『論考 日本中世史』のノリを期待していた方には当て外れかもしれませんが、わたしにとっては、とにかく展開がわけわからん時期の流れがだいぶ見通しが良くなり、収穫がありました。