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開店休業の記

今日の本

いのちの木のあるところ

 『いのちの木のあるところ』(新藤悦子:作 佐竹美保:絵 福音館書店)、読了。

 これはネットのどこかの書評サイトでちらりと見かけて、気になって読んでみました。児童文学です。出版社によると、対象は小学高学年から、とのこと。たしかにそのくらいがちょうどいいかな。

 13世紀、トルコの山地の小国に建設され、現在は世界遺産となっている「ディヴリーの大モスクと治癒院」をめぐる物語です。登場する人物の幾人かは実在の人物で時代背景も史実に沿っているようですが、創作のお話です。作者のあとがきによると、このモスクと治癒院については謎が多いそう。それでも、この史跡の魅力を伝えられることを願って、限られた資料から推測を重ね、物語にした、とのことです。

 文字は大きめですが、500ページ超、読み応えあります。

 今から800年ほど前、トルコ・エルズィンジャンの王の末娘・トゥーラーンの幼少期からお話は始まります。トゥーラーンは身体が弱く、物語が好き。月日が流れ、姉たちは会ったこともない他国の王子や皇帝に嫁いでいく。自分にもそんな将来が待っているということに不満を覚えるトゥーラーン・・・。

 児童文学ですので、大人向けの小説とは違い、複雑な人間心理を微に入り細を穿つように描写したりせず、やさしい文章でごく素直にお話は進んでいくのですが、それがむしろ心地よい感じです。

 遠く、過去あまり交流があったとは言えないトルコの歴史は日本人にはあまり馴染みのないもので、わたしもほぼ何も知りませんが、こうした物語ならイメージが頭の中でふくらみます。知らない国の歴史に触れるなら、最初はカッチリした大人向けの歴史書より、こうしたものに案内してもらいつつ入っていくのがよいのでは?

 作者が女性だけに、登場人物も女性が多いです。戦の絶えない時代でもあり、それが物語の背景に影を落としているのですが、そこは簡略な記述にとどめ、描写の中心はかの地の人や文化。そうした点も好感が持てます。歴史物語というと、男だけが活躍する政治や戦争の話ばかりと飽きたらなく思っている方にオススメできるかもしれません。

 対象年齢くらいの読書好きの子がまわりにいたら、プレゼントしたくなるような本です。そして、大人にとっても得られるものは少なくない、良い本だと思います。