『731部隊全史』(常石敬一:著 高文研)、読了。
生物兵器の開発を行い、そのために人体実験まで実施したことで悪名高い旧日本軍の731部隊。731部隊は、医学兵器開発を目的とし創始者(石井四郎)の名をとって石井機関と呼ばれた陸軍の組織の一部でした。本書は石井機関の創設からその活動、敗戦による消滅と関係者の戦後日本での動向を追っています。なお、記述の中心は石井機関がどのような組織であったかであり、731部隊による非人道行為については概容に触れる程度ですので、そちらを詳しく知りたい場合は別書にあたったほうが良いでしょう。
著者は、科学における軍事研究の問題点を訴えるために本書を書いた、としています。その問題点とは、自由と公開が原則の科学にあって、機密保持を理由に公開されない軍事研究は、①多額の費用と公開されている一般の研究の知見を使いながらその成果を社会に還元しないブラックホールの如きものになってしまう、②公開されないために外部の研究者のチェックを受けることがなく妥当性が検証されていない疑似科学に堕する可能性がある、③秘密裏に行われるため、時に社会倫理から逸脱した行為がなされ、そして隠蔽される、など。その実例が石井機関にあったことが示されています。
石井機関が作った生物兵器は実戦でも使用されたことが明らかになっています。1942年には中国戦線で投入され、皮肉なことに日本軍将兵に大きな被害が出たそうです(罹患者10000人以上・死者1700人以上)。ああ・・・。
読みやすい本ではありませんが、内容は濃いです。