「経理から見た日本陸軍」(本間正人:著 文藝春秋)、読了。
日本陸軍に関する本はたくさん出ていますが、直接戦闘や作戦にはかかわらない経理についての話という異色の内容です。著者は元々防衛庁の会計畑の出身で、現在は大学准教授の研究者。
日本陸軍の経理を体系的に学習する、というものではなく、一般向けの新書ということでざっくりとした仕組みの説明と比較的わかりやすく興味深い事例の紹介が中心です。もっとも、事務の話だけに規定や数字、分類に表といった、こうした仕事の「付き物」が頻出しますので、苦手な人には辛いかも。わたしはかつて事務職だったこともあり、楽しく読めました。
軍隊も業務は特殊ですが役所の一つ、まずは予算請求のあれこれを振り出しに、旧陸軍のお金の使い方、巨大組織維持のための物資の調達、軍需品のお値段、経理人材の育成、果ては経理関係の不祥事まで。
とりあえず、主食の麦ごはん、割当が一日一人6合って多くね? 標準の献立見るとほぼ毎日味噌汁と漬物が出てます。日本だねぇ。
関東軍特種演習、いわゆる関特演が陸軍の独走による対ソ連開戦のための準備行動であり、その後1〜2ヶ月で方針が東南アジア進出に変更されたため、いったん北方に動員した兵力を改めて南方に振り向けることになり、膨大なムダが生じた、という話は聞いていたのですが、本書によるとこの結果、現在の貨幣価値にして8兆5千億円にのぼる巨費を余計に支出せざるえなくなってしまったそう。体力のない国がこんなことやって・・・、負ける戦争、するはずだよと思わずにいられません。
著者が驚き、わたしもゾッとしたのは、「在支兵力の計算方法」の「自然損耗」という項。「実績に基づけば、大体兵力の一割が戦死および戦病死のため損耗する。」 実績で一割! ひどい・・・。
蛇足です。著者は、司令部偵察機1機あたりの費用が軍偵察機のそれの2倍になっているが、この差が生じた理由が非常に気になると書いておられまして、これは昭和16年度用の予算資料に出てくる数字なのだそう。時期から推測すると軍偵察機がエンジン一つの九九式に対し、司令部偵察機がエンジン二つの一〇〇式だったことが要因ではないかと愚考するのですが、いかがなもんでしょ?
日本陸軍のあまり取り上げられてこなかった一側面がうかがえる本です。