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開店休業の記

今日の本

すべての月、すべての年

 「すべての月、すべての年」(ルシア・ベルリン:著 岸本佐知子:著 講談社)、読了。

 アメリカの女性小説家(表紙写真の人)の短編小説集です。すでに亡くなっており、生前は無名であったそうです。わたしも全く知りませんでした。ところが2015年にこの本の短編すべてを含む作品集が出版されると、ベストセラーになり再評価されたとか。

 この本には19編が収められていますが、そのほぼすべてにおいて女性が主人公であり、その視点から語られています。教師、掃除婦、病院事務など様々な職業を転々としてきたという作者の経験がどうやら反映されているようであり、厳しい現実の中に置かれたアメリカ女性のある時期を切り取る、そんな感じの作風です。

 貧困、中絶、出産、不倫、暴行、薬物依存者矯正施設・・・。そうした生々しいことがらを情緒に流れず余計な修飾を排して、写実的に、ドキュメンタリーのように、むしろ乾いた文体で描いています。そして、簡明、的確な表現でスパッとこちらに切り込んできます。

 印象は鮮烈です。異国の、世代も違う男性としましては、正直「共感しました!」などとはなかなか言えない内容の作品ばかりなのですが、「こういう感覚はなかった、こういう視点で物事を見たことはなかった、こういう立場がどういうものか考えたことはなかった」と、自分がスキだらけであることを不意に指摘されたような気分です。

 驚いたことに作者は第二次世界大戦前(1936年)の生まれ。経歴を伏せられた上で読んでいたら、とてもそうだとは思わなかったはず。在世時に評価されなかったのは、作者が時代の先を進みすぎていたからではないでしょうか。