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開店休業の記

今日の本

絶滅魚クニマスの発見

 「絶滅魚クニマスの発見」(中坊徹次:著 新潮社)、読了。

 かつて秋田県の田沢湖の特産であったクニマスは、水力発電と農業用水のための開発により酸性の水が湖に流入したことから、1940年代に姿を消し絶滅したと考えられてきました。しかし、2010年に山梨県・西湖に生息していることが明らかになりました。このことは当時、大きく報道され、わたしも記憶しています。

 著者は魚類の研究者で、クニマスの生息を確認した京都大学チームの教授です。

 まず、第1部でクニマスがどのような魚であって、西湖で見つかった魚がどのような過程でクニマスであると確認できたのか、ということを詳細に解説しています。

 続く第2部では、江戸時代にさかのぼる田沢湖とクニマスの歴史、開発と田沢湖での絶滅、西湖での発見後の歩みと今後についてと、クニマスにかかわる過去・現在・未来について紙幅を割いています。

 研究者らしく、浮ついたところのない堅実な文章で、細かい点まできっちり書いているという印象です。それだけに一般向けであってもあまり読みやすいとは言えない感じもありますが、単にクニマスという魚の生物学的な解説にとどまらない内容を含んでいて、読み応えあります。

 この『発見』の実情が、当時の報道から受けた『劇的』な印象とはかなり異なっていたことは意外でした。著者は「クニマスは見てすぐわかる魚ではない」と本書中で強調しています。