「ぼくたちに翼があったころ」(タミ・シェム=トヴ:著 樋口範子:訳 岡本よしろう:画 福音館書店)、読了。
児童文学です。「どこいったん」同様、読書メーターで紹介されていたのを見かけて読んでみることにしました。
舞台は1930年代のポーランド・ワルシャワ、主人公は孤児のユダヤ系の少年・ヤネクです。育ての親である姉の元を離れ、孤児院で暮らすことになったヤネクの視点で物語は進みます。
当時画期的な運営を行っていた孤児院での暮らし、子どもたちに慕われる院長・コルチャック先生の面影、そして失敗を繰り返しながらも成長していくヤネクの姿が描かれています。
世間の冷たさ・厳しさの前に無力な悲しさ、愛する姉に対するわだかまり、しばしば状況に対処しきれず自分の思いを伝える言葉にも乏しいために出口を見つけられず頑なになっていく心。描写が細やかなだけに、ハラハラもし、時に読んでいていたたまれない感じさえしましたが、それでも読ませる文章には力があります。
登場する子どもたちとはかけ離れた年齢になってしまった大人といたしましては、「ああ、そういえば、子どもってそうだったな」とすっかり忘れていた心のありようを思い出すことも。
それに歴史をそれなりに知っている大人なので、初めから彼らの先行きに暗雲が垂れ込めているのを意識しながら読まざる得なかったのですが、しかし辛い場面はあっても陰鬱なお話ではありません。暗い歴史の中にも光や希望があったことを伝えようとするお話です。
このお話自体は創作ですが、コルチャック先生(児童教育に尽力し、ナチス占領下のポーランドにあって解放される許可が出たにもかかわらず、それを拒否して子どもたちとともに強制収容所の露と消えたユダヤ系ポーランド人)と孤児院は実在しており、実際にこの孤児院出身で存命であった人物に取材もし、当時をできるだけ忠実に映した日常を描くことを願って書かれた作品だそうです。
良い本です。ヤネクと同じ年ごろに読めるとよかったな。