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開店休業の記

今日の本

財政赤字の神話

 「財政赤字の神話」(ステファニー・ケルトン:著 土方奈美:訳 早川書房)、読了。

 近年話題となっているMMT(Modern Monetary Theory・現代貨幣理論)の一般向け解説書。著者はアメリカの経済学者で、この経済理論の提唱者の一人。

 MMTの主張するところをいくつか挙げてみますと、

 「通貨の発行者と利用者は違う。他の資産とは交換・連動させない不換通貨を独自に発行し、外貨建ての借り入れをしない通貨主権を持つ国にとって、財政均衡は重要ではない。重要なのは通貨ではなく経済の実物資源である。」

といったところでしょうか。

 本書では、日本も通貨主権を持つ国として挙げられており、著者は日本の財政赤字を問題ではないとみているようです。

 そのためか、日本では「財政赤字を容認する理論」として紹介されることが多いような気がします。そう聞くと、「野放図に財政支出を増やしてしまってハイパーインフレが起きるんでは?」と思ってしまうのですが、本書が重視しているのは財政赤字ではなくそのインフレで、「単なる財政赤字は過剰支出ではなく、インフレを引き起こすに至った場合が過剰支出である」としています。従って「財政の健全性はインフレが適正な状態にあるかどうかで判断されるべき」であり、(日本のように)「低インフレあるいはデフレの状態にある場合はむしろ財政支出が不足している」と説いています。

 従来の経済の常識とは大きく異なる考えであり、わたしも読んで正直、かなり戸惑いを感じています。 ただ、本書の内容についてはそれなりに説得力があるとも感じています。

 理論を支える数値的なデータは示されていませんが、本書が一般向けということでむしろ編集側が削ったようです。学問的にきちんと学びたいという人は、別の本をあたるべきでしょう。

 個人的には、「財政の健全性を赤字ではなくインフレで判断するというのが正しいとしたら、どのような指標を使ってそれがどのようになったら支出が過剰だと判断するべきなんだろうか?」という疑問を持ったのですが、それも本書レベルでする話ではないのかもしれません。

 非常に興味深い内容でした。とはいえ、著者の主張が正しいかどうかは、経済学の素養がないわたしには判断しかねます。この主張に対する反対派の意見が聞きたいです。その上で是非を考えていきたいと思います。

 コロナ禍により経済が停滞せざる得ず、多くの人が経済的困窮に直面する中、なぜか株価は上がっていくという異常な状況を見ると、お金の循環に何か問題があるというのは素人目にも間違いないと思います。MMTが正しいかは別として、新しい経済の考え方が必要だと思います。