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開店休業の記

今日の本

炭鉱と「日本の奇跡」

 「炭鉱と『日本の奇跡』」(中澤秀雄・嶋﨑尚子:編著 青弓社)、読了。

 日本の近代において石炭産業はどのような影響を与えたのか、多面的に取り上げたもの。

 わたしは産炭地とは無縁の育ちですが、幼少の頃は石炭産業がまだ十分に存在感を持っていました。今のように観光用ではなく、実戦力として働いていた蒸気機関車を見たことがある世代です。とはいえ、その頃すでにエネルギー転換が進行しており、衰退は明らかになっていました。ニュースで何度も各地の炭鉱の閉山が伝えられていた記憶があります。ライト付のヘルメットをかぶった男たちが最後の操業を終え、悲しげな表情で坑道から出てくるのをテレビで見て、「この人たちはどうなってしまうんだろう?」と感じたのをおぼえています。

 そんな記憶がふとよみがえり、炭鉱に関わる本を読んでみたくなり、選んでみました。

 う〜ん、基礎知識のない入門者向きではないかも。様々な角度から見た日本の石炭産業ということで、参考になる話は多いのですが、解説なしで使われる用語などは結局自分で調べなければならなかったりで、わたしにはもっと通史寄りのものを読んでからの方がよかったかな。

 でも、読んでよかったです。

 北炭夕張新鉱の事故のこと、おかげで思い出しました。大事故だったし、すでに幼いという齢でもなかったのだからおぼえていてもよかったはずなのに、人の記憶のなんと頼りないこと。あれが今世紀に入ってからの夕張市財政破綻につながっているのだから、なおさらです。

 The Alarm が "New South Wales" で歌った Rhondda も産炭地だったんですね。サッチャー政権での合理化による大量閉山が歌の背景にあるわけです。

 石炭は「過去のエネルギー」というイメージがあったのですが、福島原発事故の影響があったとはいえ、いつのまにか石炭火力が天然ガス火力と並んで主力発電方式になっていて、2019年現在で日本が世界最大の石炭輸入国であるという事実には改めて驚かされます。

 日本の石炭産業が衰退したのは、石炭が不要になったわけではなく、国際的な価格競争に勝てないからということも今更認識しました。日本で石炭採掘というと地下深く坑道を掘り進めていくものだとばかり考えてしまうのですが、有力な輸出国であるオーストラリアなどの産炭地では、石炭は地表に露出しているので、大規模な露天掘りが可能であり、当然生産コストでは圧倒的にそちらが有利なのだとか。

 また、石炭は大気中では品質が劣化する上、火災の危険性もあって、長期大量保存が難しく、しかも生産調整しようとしても施設の維持費用は稼働の有無にかかわらず必要なため、需給の変動に対応しにくいのだそうです。なるほど。

 もう少し日本の石炭産業についてなにか読んでみようかと思っています。いい機会になりました。