「女官」(山川三千子:著 講談社)、読了。
明治の終わりから大正の初めまで、明治天皇とそのお后に仕えた宮中女官の回想記です。著者は華族出身で、天皇・皇后の側近くで世話をする高位の女官でした。
そもそも、彼女が勤務していた時代は「宮中のことはどんな些細なことも、だれにも親兄弟にも話してはならない」ということだったそうですが(まあ、そうでしょう)、敗戦後、そうした禁忌もなくなった1960年に本書の原本は刊行されています。当時は皇太子(現在の上皇)が結婚したばかりのころです。宮中のことが「世上いろいろあやまり伝えられて」いることが不満であったようで、そのためにあえて筆をとったと述べています。文体は語り口調で、現代の人にとっても読みやすいかと思います。
おもしろいです。今より100年以上前で時代の違いを勘定に入れても、やはり宮中は浮世離れした世界だったようで、外からのいただきもので見たことのない魚が食膳に出て、皆で珍しい、割合おいしいと好評だったのが、実は「今考えますと、なんとこれは、『さんま』というまことにお安い、大衆向のお魚でございましたのです」なんて書いてあります。いや、「なんとこれは」ってさあ、貴女方はサンマも見たことなかったんですか・・・。
彼女の目を通した明治・大正両天皇やその皇后たちの姿もなかなか興味深いです。生活空間といっていい場所で身近に接した人だけに、公式な記録などとはまた違った趣があります。