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開店休業の記

今日の本

アドルフ・ヒトラー

 「アドルフ・ヒトラー」(ジョン・トーランド:著 永井淳:訳 集英社)、読了。

 知らない人はいないでしょうが、20世紀の悪夢の象徴ともいえる人物の伝記です。著者はアメリカの著名なノンフィクション作家で、他にも第2次世界大戦に関する著作があります。原著は1976年に出たもの。

 まず、しょうもない話ですが、まず分量が圧倒的です(笑)。上下2段組2巻で1000ページ超・・・。

 非常に詳細です。あくまでヒトラーの人生に集中し丹念に追った結果のこの量で、彼をとりまく当時の状況についての説明は最小限に抑えられています。であるがためにヒトラーが生きた時代の概説的な知識を持っていないと、かえって全体像が把握しにくいです。

 900ページ超の勝海舟の伝記を読んだ時も同様のことを思いました。しかし幕末維新期についてはそれなりの知識があったのでなんとかついていけましたが、この時代のドイツについては・・・、厳しかったです。

 関係者へのインタビューを元に「周囲の人々が見たヒトラーの人物像」というあたりの比重が大きい内容となっており、著者の見解や解釈は控え目です。小説的にドラマティックな書きっぷりでもありません。

 読みながらずっと「この人、このへんで失敗してくれるか、そうでなけりゃ別の道を行くか、してくれればいいのに」と思っていました。当然、そうなる訳ないのですが・・・。

 独特の発想、強烈な意志、窮乏に耐え挫折にも屈せず、弁舌の才と人を魅了する磁力を持ち、幸運にも恵まれて指導者の地位を獲得、と多くの偉人・成功者にも共通する要素があることを感じるのですが、この人は成功してやったことがもう絶望的・・・。

 その一方で、「この人、それほど大した人物でもなかったのでは?」とも思えます。クラスに一人いそう、とまでは言いませんが、千人に一人とか一万人に一人くらいなら十分いそうな程度の人物だったようにも感じます。彼が当時のドイツの人々にあれほど信奉されたことについては、正直言ってこの本を読んでもよく理解できませんでしたし、魔術的とも言われる彼の言葉の力についてもピンときませんでした。

 勝海舟が「時代が人物を作るのを、俺はたしかに見たよ」ということを言っていましたが、彼もまた「時代に作られた」人物だったのでしょうか。だとすれば、彼のような人物を作らないような時代にするにはどうしたらよいのでしょうか。

 ついでに言うと、ヒトラーとはわたし、趣味も合いそうにないです。ヒトラーは元々画家志望で音楽愛好家でありましたが、バッハは好まずパウル・クレーらを退廃芸術家として迫害しました。どっちもわたしは好きなんだよ・・・。