「パイド・パイパー」(ネビル・シュート:著 池央耿:訳 東京創元社)、読了。
小説はほんとに久しぶり。
作者は英語圏ではよく知られた作家らしいのですが、日本ではそうでもないようです。わたしも今まで知らなかったし。この本の扉の売り文句によりますと、「英国冒険小説の雄」とありますが。この作品も冒険小説といえばそういえないこともないかも。しかし、う~ん、地味だ・・・。
第2次世界大戦に突入していた1940年、いたたまれない思いから逃れるようにしてフランスに渡り、七十近い身を山間に置いて春を過ごしていた元弁護士の英国人・ハワード。戦局の急速な悪化を危ぶんで帰国しようとしていた折、同宿の幼い兄妹をイギリスへいっしょに連れて行ってほしいとその両親から懇願される。やむなく引き受けた彼は子どもたちとともに故国を目指すが、ドイツ軍の進撃は予想をはるかに超えて速く・・・。
苦難の旅路です。ですが、これといって劇的な展開はありません。年寄りと子どもの組み合わせですから、ハリウッド受けしそうなアクションシーンなぞは望むべくもなく。老人ならではの機知と弁護士の経験を生かして、難関を次々と乗り越えていく・・・、というのであれば冒険小説ぽくなりますが、そうでもないと。
なので、刺激的な物語を求める方には退屈な小説かもしれません。しかし、わたしはとても気に入りました。質のよい紀行文のように読める作品です。そして、それを支えるさりげない描写力には確かなものを感じました。
声高に反戦を叫んでいるわけでもないのに、戦争の悲しさ、辛さがじんわりと伝わってくる作品でもあります。
この作品が世に出たのは1942年(戦争中!)。同じ時期の日本でこんな小説を書くことができただろうか、受け入れられただろうかなどと思うと、彼我の差はやはり大きかったのだなと痛感せざるえません。