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開店休業の記

今日の本

断作戦

 「断作戦」(古山高麗雄:著 文芸春秋)、読了。

 第二次世界大戦中の1944年、中国雲南の街・騰越で十数倍の兵力による連合国側の攻撃を受けて玉砕した日本軍守備隊の戦いを、数少ない生き残りが戦後三十数年を経て平穏な暮らしの中、時の流れを感じつつ追憶するという形で描いた戦記文学。形式としては小説ですが、実際に騰越守備隊に所属していた方を取材して書かれており、ノンフィクションに近いものと考えてよいのでしょうか。二〜三千名いたとされる守備隊が最後には数十名しか生き残らなかったという苛烈な戦場の実態が淡々と、しかし生々しく描写されています。心にズッシリ響く内容で、かえって感想がまとまらないくらいです。

 国も時期も違いますがベトナム戦争を描いたティム・オブライエンの短編集「本当の戦争の話をしよう」に共通する「匂い」を感じました。幸運にも生き残り再び故郷で平和な生活を享受できるようになったにもかかわらず消えない胸のうちの思い、戦場を体験した者が戦場を知らない者にその経験・感覚を伝えることの難しさ。故カート・ヴォネガットも、故国に帰ってきた兵士の多くが戦争について語ろうとしない理由の一つはとても語れるようなものではないからだ、と言っていました。

 作中の「今、反戦、反戦ちゅうて騒いどる人を見ると、こん人たちは時代が変われば、撃ちてしやまんの、聖戦の奉公ちゅうて、騒ぐんじゃろうと思われてならんです」という言葉は自戒のためにも記憶しておきたいです。

 なお、ほんの数行ですが、戦前のプロ野球・巨人でキャッチャーとして活躍した吉原正喜選手がこの戦場にいたことが書かれています。吉原選手が最終的にどうなったかについては記述がありませんが、とうてい脱出できるような状況ではなく、おそらくここで戦死されたと思われます。

 わたしの祖母は吉原選手の幼馴染だったそうです。出征前に吉原選手は祖母に会いに来て、「戦争になんか行きたくない」と漏らしていたそうです・・・。合掌。