『阿修羅像のひみつ』(興福寺:監修 多川俊映・今津節生・楠井隆志・山崎隆之・矢野健一郎・杉山淳司・小滝ちひろ:著 朝日新聞出版)、読了。
阿修羅像を代表とする奈良・興福寺の仏像の数々を展示する「国宝 阿修羅展」が、2009年に開催されました。大人気だったことは記憶していますが、延べ190万人を超える観覧客を集めたとはすごい。開催にあたっては、展示会場の一つであった九州国立博物館に文化財用の大型X線CTスキャナがあったことから、出展された八部衆・十大弟子のうち阿修羅を含む9体について、これを用いた調査が行われました。そして9年がかりでまとめられた調査の一般向け成果報告が、本書になります。
そういう性格の本ですので、歴史あるいは仏教関連の話より科学的な分析結果や判明した制作技法・工程の解説が中心で、仏像を扱った本としてはいささか異例の内容になっています。それだけにややもすると、話があまり一般になじみのない専門寄りになっていき、読みやすいとはいえないのですが、その一方でこうした新しい取り組みが始まっているのだな、今までは手に入らなかった知見が得られる時代になったのだな、という実感と、そのおかげでこれからおもしろくなりそうという予感の両方をもたせてくれる本でもありました。